三話 巨大カメレオンVS鳥人間
森の中、レヴィオスはフェーズを抱えて逃げていた。
「ねえ、下ろした方がいいッスよ…!私も走って逃げれるし…隠れられる!アンタだけが無理する必要無いッスよ!」
しかしレヴィオスはそのまま走り続けた。
「いや、痛みを受けるのは俺だけで良い…この状況は俺と顔も知らねえ誰かのせいだ…お前に非は全くない…ウッ…!」
左肩に鋭い痛みが走る、矢だ。
「クッソ…弓矢を持ってやがったのか…!」
走りながら後ろを見やると、死体は既にすぐそこまで追ってきていた。
「死んでやがるから体力も無尽蔵なのか…!」
恐らく術師は肉眼ではなく何かしら別の手段でこちらを確認している、つまりどこかに隠れても意味は無いだろう。
「…おい、マジかよ…?」
レヴィオスの目の前に洞窟の入り口らしい穴が現れる。
「行き止まり…洞窟に入ったら復路の鼠…」
しかし三方から死体が近づいてきている、三人は同時に矢を取り出し、弓を引き絞った。
「くっ…ここしかねえのか!?」
矢が放たれたと同時、洞窟内に滑り込んだ。
「ハァ〜イ、哀れなレヴィちゃん?」
「あ?」
レヴィオスが睨みつけた先には、昨日見た紫ローブの男、ウギョイが立っていた。
「やっぱテメエか…アイツらを殺ったのは!!」
ウギョイが指を鳴らすと、背後で金属のぶつかる音がした。
「なんで死体を止めた…」
立ちあがろうとしたレヴィオスの頭に衝撃が走った。
「ガッ…!」
「決まってるだろ…直接殺す為だ…ケヒッ…!」
いつの間にか背後に立っていたカメレオンは、地面にへばりついたレヴィオスを足で仰向けに裏返した。
「お前ら…手配書の二人か!」
そう、昨日見た手配書の二人…『悪人ヅラ カメレオン』と『死霊術師 ウギョイ』だ。
「なんで俺達を狙ったんだ!」
カメレオンは深い溜息を吐くと、レヴィオスの顔を踏みつけ、捻った。
「まーた同じ台詞だよ…なんで全員同じ事言うんだ?決まり文句か?」
「おいカメレオン、奴隷はどうする」
ウギョイがレヴィオスの側でうずくまるフェーズを指差す。
「そいつもいずれ殺す、まずはコイツだぁっ」
再び顔面を踏みつけようとするカメレオンの足を、レヴィオスが掴む。
「へぇ…やっぱ抵抗するんだね…」
レヴィオスはそのまま立ち上がり、フェーズを抱えて奥へ飛ぶ。
「テメエらはこの場で殺す!!」
そして地面を思い切り殴ると、洞窟中に電撃が走るが、二人はそれを交わし、距離を詰めてくる。
「おお、中々やるじゃんけ!?」
カメレオンの蹴りを交わし、顔に向かって炎を飛ばす。
「ウギョイ!お前も手伝え!」
「わかってる」
二人の拳と蹴りを交わしながら魔法を撃ち距離を取る。
(やばい…どんどん奥に追い込まれてやがる…!)
二人の間を抜けようとするも、二人の蹴りを腹に食らってしまう。
「だあっ!」
すぐに体勢を直し、風で二人を押し返す。
「ッケ!厄介だな!」
だがカメレオンはそのままこちらに駆け寄り、フェーズに向かって足蹴りを放った。
「がっ…!」
「フェーズ!」
「次はお前だ!」
そのままレヴィオスも胸を蹴られ縦穴に落とされるが、なんとか片手で掴まり耐えている。
カメレオンとウギョイがこちらを不気味な笑みで覗き込んでいる。
そしてカメレオンがレヴィオスの右手を踏みつけた。
「ああっ…!!」
「いいねえこういう状況…まさに俺の理想通りだ!」
何度も手を踏みつけられ、次第に力が弱まっていく。
(やばいぞ…!このまま落ちれば確実に死ぬ…!フェーズが気絶してるから魔法も使えない!)
「終わりダァ!!」
まさにレヴィオスの手が限界を迎えるその時だった。
「待て!」
二人が振り向くと、そこに立っていたのは拘束したまま街に置いてきた筈のファズであった。
「ファズ!」
「お前…どうやって来た?」
ファズは剣を抜き二人へ近づいていった。
「あの後すぐに縄をちぎった、街を出たら血痕があったんで、それを辿ってきた」
「ッチ、ゴリラが」
ウギョイが舌打ちをし、指を鳴らすと、焼死体がファズの脚を掴んだ。
「無駄だ」
しかしファズによって焼死体の腕は切り離された。
「今は貴様らに構っている時間は無い!」
そういうとファズはカメレオンに切り掛かり、避けられた隙にレヴィオスを引き上げた。
「ファズ…やっぱり昨日のお前は偽物だったって訳か…」
「ああ、ソイツは俺じゃない…カメレオンの変装した姿だ…デューザ、ザム、ラクダワラは既に殺されていた…」
レヴィオスはフェーズを抱えたまま、その場に座り込んだ。
「悪いファズ…俺はもう限界だ…」
ファズが剣を構え直し、二人の方を向いた。
「ああ…任せろ、皆の仇はとる…!」
そして一瞬で距離を詰め、ファズの鋒はカメレオンの腕を捉えた。
「はぁ…面倒くせぇ…」
が、それは変形したカメレオンの腕によって御されていた。
「なんだ…その腕は!?」
そして背後に回り込んだウギョイの肘を背に食らい、体勢を崩してしまう。
「ぐう…あああああ!」
だがそのままウギョイを蹴り上げ、カメレオンの顔面に拳を振るった。
「ヤケクソになるな…」
しかし拳は躱され、刀身はいとも簡単に折られてしまった。
「くっ…おのれッ!?」
ファズは刃折れの剣を掲げたが、腹部の痛みにそれを落としてしまう。
そして何かがこぼれ落ちるような感覚…
「貴様……俺の…腹を…切った……のか……!?」
口から血、腹から腸を噴き出しながら、ファズは血溜まりに倒れた。
「ファズ!!」
「オラあっ!」
レヴィオスがファズの元へ駆け寄ろうとするも、ウギョイの蹴りを顔面に食らい、縦穴に落とされてしまった。
「うああああああ!!」
ウギョイは口元を手の甲で拭うと、カメレオンの方へ向かった。
「ったく…今日は凶作だったな…全く気持ちよくなかったぜ」
カメレオンはファズの髪を引っ張り、縦穴に近づく。
「さあ、これで仕上げだ、死んでるならそれでいいし、生きてても仲間の死体を観ながら死ねる…ケヒッ!」
そして掴んだ髪を話すと、ファズの身体は縦穴に落ちた。
「はぁ…萎えたわ、帰ろーぜウギョイ」
「ああ…サイアクなキブンだ…」
縦穴の中、意識を取り戻したフェーズは辺りを見回した。
「レ…ヴィオス…」
(そうだ…浅黒コートの蹴りを食らって気絶したんだ…レヴィオス…)
自分の真下で倒れているレヴィオスを見ると、目に光が無く、辺りには血溜まりができていた。
(アタシを庇って…!)
よく見ると、レヴィオスはある方向へ片腕を伸ばしていた、そこを見ると、昨日ホームでレヴィオスを叩き出した男が倒れていた。
(あの人…死んでる…?)
目を凝らすと、僅かに腹部が上下している事、そして腸がまろび出ている事がわかる。
(いや…生きてるけど時間の問題…!)
フェーズはレヴィオスの身体を抱きしめると、思い切り魔力を込める。
この世に存在する一定の知性を持つ種族は五種類。
人間族、獣人族、魔人族、海洋族、黒翅族、そしてフェーズは黒翅族だ。
そして各属性にはそれぞれの奥義となる『固有魔法』が存在する、勿論、黒翅族も例外では無い。
「やるしか…無い!」
レヴィオスとフェーズの魔法は、魔力の流れがフェーズからレヴィオスへの一方通行となっている、魔法もだ。
(つまりアタシの魔法をレヴィオス経由で使える可能性もある…!)
だがそれにはリスクがあった。
通常の魔法を使う分には恐らく問題はないだろう、だが他種族の固有魔法を使った者がどうなるのか、それを知る人間は殆ど居ない、何故なら実証例そのものが無いのだから。
もしかするとレヴィオスが、いや下手すれば二人とも死ぬかもしれない、だが。
(なにもしないよりは何億倍もマシッス!!)
「『黒翼展開』…!」
するとフェーズとレヴィオスの背中から黒い翼が生え、二人を包み込んだ。
「…あ、そうだ」
洞窟の出口目前まで来ていたカメレオンが声を漏らした。
「蟲を放つのはどうだ、中位のを何百体も」
ウギョイがニヤつきながら懐から瓶を取り出す、その中には粒ほどの大きさの幼虫が蠢いていた。
「いいな…ならコイツを放とう…奴らの体内で成長して見るも無残な姿にしてくれる…」
「ならぴあも一緒に送ってくれ」
カメレオンがぴあと呼ばれた純白のネズミを掌に乗せ瓶に近づけると、ぴあはその瓶に張り付いた。
そして縦穴を覗き込み、瓶を放り投げる、瓶は壁にぶつかり砕け、中から無数の幼虫が孔に降り注ぐ。
「ケヒッケヒッ…!」
レヴィオスは逆さ吊りになっていた、あたりには黒い羽根が舞っていた。
「レヴィオス」
声の方を向くと、二枚の黒い翼を生やしたフェーズが立っていた。
「フェーズ…今、どうなってんだ?」
フェーズは答えずに近寄ってくる。
「なあおい…俺達は死んだのか?ファズは?」
フェーズは変わらず近寄ってくる。
そしてレヴィオスの顔を両手で触り、ようやく口を開いた。
「レヴィオス…アンタを介してアタシの黒翅族の固有魔法『黒翼展開』を使わせて貰ったッス」
「固有魔法…?」
フェーズはレヴィオスの顔から手を離すと、今度は両手を握った。
「本来は黒翅族が戦闘用の姿になる為の魔法なんスけど…多分アタシ達の場合、所謂『一心同体』の状態になるッス」
ふと、レヴィオスは自分の背から一枚の翼が生えている事に気づく。
「それで…結局俺は何をすればいいんだ?」
「腸が溢れてる人を助けてあの二人をブッ殺せばいいんス」
「成程」
先程までの洞窟の中、その縦穴の中の蟲が次々と切り裂かれ、潰されていく。
「…なんだ?」
ウギョイが縦穴に近づいて行く。
「これは…?何かが潰れる音…鳥の羽ばたく音?!!何かが上がって来て———」
瞬間、上がってきた『何か』がウギョイの身体を真っ二つに切り裂いた。
カメレオンは両腕を変形させ構える。
「まさか…黒翅族の黒翼展開か!?」
ウギョイを切り裂いた『何か』をよく見ると、人の形はしているものの、身体中が羽根に包まれたような見た目をしており、脇にはファズを抱えていた。
「ッチ!ざけんなテメエは!!」
カメレオンが脚、身体、頭、と次々に身体を変形させ、巨大なカメレオンの姿となる。
そして口を開くと、中型のカメレオンが次々と溢れ出してくる。
「死ね!」
「ヴォアアアアア!!」
怪物と化したレヴィオスはそれらを次々と腕の羽で切り裂いていくも、対応しきれず埋もれてしまう。
「ケッヒヒ!!ざまああみろ!!早く死ね!!」
だが、レヴィオスはカメレオンの山を切り裂き脱出、カメレオン本体へ飛びかかった。
「ヴァア!!」
そして脳天に右腕の翼を突き刺し、そのまま無造作に切り裂いた。
「え!?エ!?ゑ!?」
徐々に徐々にカメレオンの頭の皮、肉、骨が粉々になり、脳ミソと血があたりに飛び散る。
「ヴオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!」
そしてレヴィオスは咆哮をあげ、カメレオンの身体をバラバラに引き裂いた。
同じ頃、洞窟の外に一人の人影があった。
その男は腰から刀を下げ、羽織っているジャケットの背と胸には、十字のエンブレムが描かれていた。
「カメレオンとウギョイ…死んでるだろうなこれ…」
男は洞窟の外まで飛び散ったカメレオンの肉片と血液を見ながら奥へ入っていく。
そしてその奥で三つの人影を見つけた、一人は重症のようだ。
「この二人は無傷だな…でもこっちは腸が溢れまくってるな…でも生きてはいるみたいだな…よし」
男はそういうと倒れた三人を隠すように右手を動かした。
すると三人の姿が———消えた。
第三話です
あらすじ消化に三話かかるのはどうなんですかね