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黒翅ゲノム   作者: 鎌糸
15/27

十五話 お前の目的が俺の目的

焼灼の創り出した炎のドーム。

その中に二人が閉じ込められてから、五分ほどが経った。

「…なあ、もう大丈夫なのか? フェーズ」

「まあ、はい、昔から、ショックな事があっても、寝ればすぐ戻るんで」

「そうか… すげえなお前、俺、そういうの結構引きずるタイプだわ」

下を除く全てが灼熱の空間に、似合わない会話だ。

レヴィオスの右腕は再生しているが、服の右肩から先は破れ、不恰好になっている。

二人がここまで落ち着いているのは、やはり目的が無いからだ。

特にレヴィオスは、仲間を失い、その仇もとっくに討った。

なんならもうここで焼け死んでもいいかな〜、ぐらい軽く捉えていた。

だがそうさせないのが、フェーズの存在だ。

焼灼から父親の話が出た途端、豹変。

正気を失い、レヴィオスの右腕でようやく静まった。

フェーズをそこまでさせる、その『父親』とはなんなのか、レヴィオスは気になっていた。

それに、この場でフェーズを道連れにするのは、あまりよろしくない。

「…フェーズ、聴いても、いいか?」

フェーズはレヴィオスが聴こうとしている内容を察したか、ほんの少し、表情を歪める。

「…いいッスよ、寝起きでスカァッっとしてるんで」

「そうか、なら聴くぞ、お前の父親ってのは、なんなんだ?」

フェーズは少し間を置き、レヴィオスの瞳孔と自分の瞳孔を視線で真っ直ぐに繋ぎ合わせた。

「一言で言うなら… 『クズ』、それか『外道』ッスね」

思い切った言い方に、少し驚く。

「具体的には、どの辺がクズなんだ?」

フェーズは顎に手を当て、目を閉じしばらく黙った。

「まず最初に、子持ちの女としか子供を作らなかったッス」

「いきなりドギツイな!?」

「そんでもって、飽きたら子供共々薬漬けにして売り飛ばしたッス」

どうやら、思っていたモノを遥かに超えていたらしい。

レヴィオスは右眉をピクつかせていた。

「それと… フォビュラス戦線で、人間と黒翅族両方の犠牲がなるべく多くなるよう動いてた…とかッスかね」

「とんでもねえな」

「まあ、最後のは確証が無いッスけどね、でも、やってても微塵も驚かないッスよ」

「その親父が、俺のフリをして本部を襲ったヤツって事か?」

「その可能性は高いッス、アタシの父親は、村が襲われる直前に消えたッス、人間に捕まったり、殺されたってのも聞いて無いし第一———」

「第一?」

突然言葉を止めたフェーズに、レヴィオスが聞き返す。

フェーズは大きく溜息を吐き、天…と言っても、そこにあるのは炎だが、それを仰いだ。

「アタシの父親は、黒翅族最強なんス、おおよそ、誰かにやられるようなのじゃ無いッスよ」

「そうか…」

そしてレヴィオスは、本命の問いをようやく投げた。

「フェーズ、父親に会ったら、何したい?」

「殺すッス、色々聞いてから」

即答、レヴィオスは苦笑いをし、炎の壁を見つめた。

「んじゃ、その目的、俺にも寄越してくれ、俺にはお前しかいない、お前の目的が、俺の目的だ」

そして立ち上がり、炎の壁へ手を翳す。

今にも掌を焦がしそうなほど熱い。

「それにはまず、コイツから出る必要があるな」

「んじゃあ早速、やるッスよ!」

フェーズがレヴィオスの背中に飛びかかり、漆黒の翼を展開、二人を大柄な鴉人間へ変質させる。

「さっきは頭に血が昇って働かなかったけど、多分これ、下は火ィ無いよな」

「そうでなくとも、魔人の創り出す隔離空間は、下がメチャクチャ弱いッス、だからドーム型なんスよ」

「タメになるな」

右肩から生えた翼が右腕に巻きつき、ドリルのような形となる。

その右腕を地面へ叩きつけると、老朽化した床は簡単に崩れ、横や上のモノよりも明らかに薄い炎が見える。

「やっぱりッス!」

「オラッ破れろ!」

再び翼ドリルを真下へ振り抜き、炎の膜を破る。

穴を開けられた火球は、徐々に規模を収縮し、やがて頂上だった部分で消えた。

「ぶっちゃけここから本部に戻っても、俺の信頼を取り戻すのは難しいな」

「『俺達』ッスよ、っていうか、アタシの方が信頼は低いッスよ」

「そりゃそうか…」

変身を解除し、二人に戻る。

「…親父を探すっつっても」

レヴィオスが窓のあったであろう四角い穴の縁へ手を掛け、外を覗き込む。

「手がかりも思い当たる場所も無いんじゃ、どうしようも無いな…」

「取り敢えず本部に戻ったらどうッスか?」

「話聞いてたか?」

「いやそうじゃなくて、ダザム、アイツアタシ達のついででやられそうになってたッス、上手くいけば仲間に引き込めるんじゃ無いッスか? フォビュラス戦線、つまり黒翅族を詳しく知ってるかもしれないッスよ」

「つっても… いや、まあ、それしか無いか、今は」

騎士団の人間には顔を知られているかもしれない、自分達と似た状況のダザムを仲間に引き入れるしか、今はなかった。

廃墟の窓だった穴から飛び降り、顔を上げる。

地面の石畳を突き破って草が生え散らかされ、ツタが周辺の建物の外壁を覆っている。

錆びつき、読めなくなった看板や、風化によって半壊した店が、この街がかつて栄華を持っていた事を示している。

その、『幽霊街(ゴーストタウン)』の元道路の上にいるのが、二人であった。

そこらを見渡すと、カメラを持った軍服の男と目が合う。

「………」

「………」

「………」

一瞬、静止する。

直後、二人は飛び、構える。

軍服の男は、遅れて反応し、カメラを構えた。

(カメラに何か…!?)

…が、男はフラッシュを焚き、直ぐに走り去っていった。

「…何だったんだ?」

「何やってるんスか!? 早く追うッスよ!!」

「え!?」

「わかんねえんスか!? 写真を撮られたって事は、手配書に貼られて顔が知られるッスよ!」

「あああああ!?!? 早く行くぞ!!」

二人は全速力で駆け、軍服のカメラマンを追った。

「ヤバイヤバイ追いかけてきたぁッ!!!」

「待ちやがれ! そのカメラはぶっ壊させてもらうぞ!」

軍服を追う二人と交差する様に、黒い影が迫り、フェーズを掴んだ。

「痛ッてぇッ!! ああ!? フェーズ!」

レヴィオスは拐われたフェーズと、構わず背を向け逃げ続ける軍服と交互に視線を移し。

「ああもうッ!」

と、掌にギリギリ収まるほどの大きさの石を軍服の頭に向かってブン投げた。

その石は後頭部に直撃し、軍服の身体はそのまま転げた。

レヴィオスはフェーズを拐った影が右の道路を曲がった事を目視し、カメラの元へと走っていった。


中央騎士団本部の地下研究所、そこの所長であるラブラは、レヴィオスとフェーズの事を考えながら、爪を弾きヒマを潰していた。

村の住人、そしてソイルから回収した魔人の心臓の研究は全く進んでおらず、なぜ人間の身体を変質させるのか、何もかもが不明であった。

「はぁ… 黒翅族の身体… もっと調べたかったんだがねぇ…」

そう呟き、目の前のモニターに表示された心臓のデータを見ていたところ、扉から物音が響いた。

見ると、三人の警備が横たわり、その中心には赤いジャケットを着込んだダザムが、鋭くこちらを見据えていた。

「指名手配犯じゃないか、出頭かい?」

「やっぱり、もう手遅れだったか… バコプロの根回しで中には入れた、まあ、さすがに地下研究所(ここ)は無理だったから手荒な事をした」

「そうかい、それで、さっきも言ったが… 出頭なら、団長殿の御前へ直接出向いたらどうだい?」

そう言うとラブラはゆっくりと卓上のぬいぐるみを掴み、頭を思い切り引っ張った。

「まあ、あの気まぐれ少女のことだ、眼に入った瞬間、晒し首にされないという保証はできないがね」

ぶちりと人形の首が裂け、ワタが床に散らばる。

「おおっといけな〜い… 散らかすのはNGだったねぇ」

「早く、ヤツ(・・)のところへ案内しろ」

ラブラはダザムを見るとニヤリと笑い、上の方にあったスクリーンを手元へ引っ張り操作する。

すると壁の一部が縦長方形に外れ、金庫のようにダイヤルやらがついたドアが奥から嵌め込まれる。

そのダイヤル達がひとりでに回転し、重い金属音がすると、ドアが手前に開く。

「三分だ、君のような輩と国家機密の危険生物の会話を唆したとなれば、私もタダじゃあ済まないからね」

「ああ、すぐに済む話だ」

ダザムが前髪をかき上げ、ドアの虚空を見つめる。

急な階段が地下室のさらに深く下へと伸び、暗がりで奥を見る事はできない。

「ああ、言い忘れていた、暗い空間で二人きりだからといって、変な気は起こさないようにね」

「俺にんな特殊性癖は無え!」

「どうだったかな、キミは確か少年兵時代、大型イグアナで致そうとしていた気がするが…」

「見てたのかよ!?」

ニヤつくラブラに舌打ちをし、ダザムは階段を降りて行った。

ダザムの少し先の灯が順々についていき、やがて格子のドアが見える。

錆びついたドアを押すと、無駄にデカイ音を鳴らしながら奥に倒れた。

「オイオイ… 建て付け終わってんな」

部屋の中は仄暗く、左右に蛍光色の液体を一杯に詰められたガラスの筒が並び、何やら肉塊のようなものが浮かんでいる。

その奥の一際大きい筒… というより、水槽に近いそれに目をやる。

部屋内に灯となるものは一切無かったが、蛍光色の液体そのものが光を発しているらしく、部屋を青白く照らしていた。

水槽内の『ソレ』の身体にはいくつものチューブが繋がれ、天井や前の機械に繋がっている。

ここは元々、黒翅族によって発掘された古代遺跡を改造した者で、筒内の液体や、あたりに散乱している機械は、人間が開発した機械の、いわゆる『プロトタイプ』というヤツだ。

これらのオーバーテクノロジーの実用化をこのスピードで進められたのは、紛れもなくラブラの功績だ。

「相変わらず、戦場のド真ん中で死体からウイルス兵器を造るヤツは違うな…」

かつての戦友のイカレ具合を再確認し、水槽内の『ソレ』を見やり。

「よお、お前に聞きたい事があんだよ」

と呼びかける。

『ソレ』は不機嫌そうに唸り、ギョロギョロとした眼を膜で覆い、叫んだ。

息が泡となり、水面から出て行く。

その姿は、緑色で、皺だらけの、しかし硬い表皮を持ち。

「そういうなよ、はしたないぜ? 別に脳ミソは人間のままなんだろ?」

ゼンマイの尾に、半球の目球。

「なぁ…」

チューブに繋がれ、液に満たされた『ソレ』…。

「『カメレオン(・・・・・)』!!」


15話です。

ひっさびさに4000字書けた…

というのも、普段は投稿日に数時間だけかけて書くのを今回は二日かけて書いたので4000行ったワケですね。


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