十一話 再戦
縫血の隙を与えぬ追撃に、ゲノムは成す術もなく校舎に叩きつけられ、その度に羽根が飛び散る。
「グッ…ううっ…!」
それだけでは無い、戦闘中にも、次々と生徒、教師達は斬り裂かれ、縫血の身体となっていった。
血反吐を吐きながら身体を持ち上げるゲノムの背を、天井から伸びた腕が押さえつける。
数百人の人間で作り出されたキメラは、もはや数体の分身を作るまでに増え、本体が全くわからずにいた。
「どこだあの野郎…!」
縫血の分身がゲノムに群がり、羽根を毟り取っていく、ゲノムの羽根は鋼で、分身の手足はどんどん斬り裂かれていくが、ゲノムにダメージは入っていた。
「ヤバいぞ…!!」
と、その群がったキメラは、骨の腕によって振り払われた。
そして床や壁に叩きつけられ、潰される。
「何やってんだお前… 魔人がいたなら早く連絡しろ」
「ダザムッ!」
不機嫌なダザムの足蹴りがゲノムの右頬を捉え、床に転がせる。
「ああっ…」
「勝手に動きやがって…」
二人の前に、異形の者が姿を現す、縫血だ。
「やあ、この前ぶりだね、お二人さん」
縫血の身体は数多くのパーツが縫い付けられ、校舎の天井を突き破っていた。
「でも、中に来たのは悪手だったね」
床や天井、壁、建物中から手足が伸び、二人に迫る。
「もうパーツを建物中に埋め込んでたんだよ」
縫血の背からは無数の腕が生え、それが床に埋まっていた。
その内の一つが大きく振りかぶり、二人に迫る。
ダザムはそれを死神の腕で受けるが、その威力に校舎外へ弾き飛ばされる。
「ソイルはどうした」
「心臓を埋め込まれて化け物にされて…」
言葉に詰まり、そして、口を開く。
「俺が殺しました」
「で、その件の心臓は?」
「アタシ達の口ン中ッス」
二人の眼の前に降りた縫血が、ゲノムの方を指差す。
「だったら食えよ、そうすればあの力を受け継げる」
「なんだと?」
骨と暗雲が二人を包み、縫血へ拳を向ける。
「ああ、黒翅族は他種族の心臓を取り込んで能力を奪える」
「そうなんスか!?」
「フェーズ…」
「いや…初めて知ったんスけど」
縫血は微笑し、腕の上を滑り距離を詰めた。
「ハハッ! まあ、まだ子供だもんね! 知らないのも仕方…」
地面を砕いてツギハギ腕が現れ、二人を挟もうと迫る。
ダザムがそれを刀で切り離し、縫血に斬りかかる。
「お前はここで仕留める! こっちで調べさせてもらう」
ダザムの鋒が縫血の顔面を捉えようとした時、それが生徒の顔へ変わる。
「やめて…やめて…殺さないで…」
一瞬止まった隙を逃さず、肉塊が迫る。
しかしそれを死神の腕で防ぎ、肉塊を握り潰す。
その隙間から無数の腕が現れ、ダザムを掴む。
「ハッ! 学ばないなお前も!」
地面を蹴り、ダザムへ迫る縫血を蹴り飛ばし、ゲノムは縫血の喉笛に掴みかかった。
「なんで殺した!」
「殺してない、ソイルが勝手に死んだだけだ、アイツは魔人の遺伝子に適合できなかった、だから死んだ」
「なんだと!?」
ゲノムの拳が縫血の頬を抉り、その歪な奥歯を顕にさせる。
「ああああ!?」
縫血はイラついた様子で背から伸びた手でゲノムの顔を鷲掴みにし、地面に叩きつける、だがそれを直ぐに斬り裂き、再び縫血へ掴みかからんとした。
「強い! だからこそそれを喰って欲しい!!」
縫血はそれを、まるで賭博で大勝ちしたような恍惚とした表情で見つめ、首の縫い目を解いた。
「させるか!!」
その髪を掴み、力一杯殴りつける。
「ブッ殺す!!!!」
そして何度も、乱雑に地面へ叩きつける、縫血の髪が数本千切れ、顎はとっくに砕けている。
「あ………ああ…」
地面に落とされた縫血の頭を、ゲノムの足が踏み潰そうとしたその時。
校舎から、噴水から、無数の蒼い火柱が立ち、あっという間に辺りを蒼炎で包み込んだ。
蒼炎は触手のようにゲノムの両手足を包むが、背から鋭い漆黒の翼を生やし、縫血の頭を叩っ斬った。
それと同時に、肉片と化した縫血の頭を包み、消えた。
蒼炎は役割を終えたように消え、その跡にはレヴィオスの咆哮が響いた。
一時、学園を包んだ蒼炎は、蛇の様に蛇行し、中央の過疎地区、ゴーストタウンへ向かっていた。
その頭部には、顔に焦り、怒りを浮かべた焼灼と、その脇に抱えられた肉塊があった。
「縫血…クソッ…! やり方を変えるしか無い…!」
蒼炎の蛇は廃墟となった建造部に突撃し、焼灼の焦げた側の顔へと収束していった。
「その為には…」
と、肉塊をそっと地面へ置き、眼を閉じる。
そしてダザムの顔を浮かべ、再び眼を開いた、その瞳には、悪意と、それを加速させる炎が浮かんでいた。
「ヤツらを孤立させるのが最も良い…!」
十一話です。
私生活が忙しすぎてボリュームががが…
次回は明日の4〜5時頃です。