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某スーパーでの会話

「あのねえ……この前もそんな事言ってたよね?」

 福士光孝(ふくしみつたか)はそう言うと、目の前の学生を呆れた目で見つめた。名前は何だったか、確か先月入ったばかりのレジの子だったはずだ。

 レジの子――内野康子(うちのやすこ)は、いやそれは、と口ごもる。

「ほんとに母が倒れてぇ、全然起きなくってぇ、で、病院がすっげー混んでてぇ、医者はヤバいって言っててぇ……」

「ほう、お母さんが危篤なのね?」

「あ! それ! それっす!」

「だからね、この前もそんな事言ってたよね? お父さんが事故にあったとかさ。その前は――」

 福士は健康チェック表をめくる。

「ああ、これだ。お爺さんの腰が抜けた。なんだこりゃ? 君と関係ないよね?」

「いや、でも――オチさんは休んでいいよって……」

 口を尖らせる康子に、福士は大きな溜息で応える。

「あのね、落合さんがそう言ったのは、君が全然使えないからだと思うね。あの人、そういうとこあるから」

 康子が再び口を開く前に、福士は畳みかける。

「君ね、週五日入れるって言って入ってきてさ、結局週一で、しかも休みがちじゃ仕事も覚えられないし、いつまでたっても使えないのね。わかるよね?」

「……これってパワハラじゃね?」

 康子がぼそっと呟くと、福士は顔を歪めた。


 結局そういう話になる。だが、使えない奴は使えない。スーパーの店員とはいえ、適当にやっていい仕事ではないのだ。

「……ともかく今日は仕事に出てください。休みはあげれません」

 どんなに使えなくても、品出しくらいはできるだろう。そろそろ昼で、今日は土曜。すでに出勤しているフリーターの大学生と主婦二人は昼であがりだ。自分とこの子、そして、今から出勤してくる五人で昼のラッシュを捌かなくてはならない。駅の近くのスーパーは安定して客が来るが、シフトが崩れると全く回らないのだ。

 康子は、吃驚したような顔になった。

「ええっ!? 今度は本当なのに! 自分の親がやばい時にレジなんてやってられねえよ!」

 今度は本当に、ときたか。福士は苦笑いを浮かべながら、喚き続ける康子を眺めた。清々しいくらいのクズだな。一体どういう教育を受けたら――


 電話が鳴った。


 福士は指を一本立てると、静かにと言って受話器を取った。

「はい、スーパー山羽(やまばね)逸見町店マネージャー福士です。あ、落合さんの息子さん、いつもお世話になっております。どうしまし――」

 福士の顔が固まった。

「はい? ええ、はい、はい……ああ、それは――わっかりました。ええ、じゃあ、今日は休みで、はい――」

 福士は受話器を置く。

 途端に、またも電話が鳴った。

 続いて福士の携帯も鳴る。受話器を取る前に携帯を立ち上げると、電話の着信とSNSのグループ通知のアイコンが目に飛び込んでくる。

『石野の家族のものです。急病につき本日は仕事を休ませていただきたく――』

『母親の携帯から送っています。今病院で――』

『そちらに行く途中で息子が倒れました。今日はお休みを――』

 呆然としながら受話器を耳に当て、福士は康子と見つめ合った。

「――はい。はい、ええ、今日は――ああ、意識が。わ、わかりました。ええ、お大事になさってください。はい、ええ、失礼します……」

 康子はゆっくりと受話器を置いた福士から、彼の携帯に目を移した。どうやら今日これから来る予定の店員は、全員休みのようなのだ。

「あ、あの……今日、一時間くらいなら仕事できるかな、って……」

 福士は頭を振った。

「い、いや、店は臨時休業にするよ。君と僕二人じゃ、どうしようもない……っていうか、これって保健所に連絡しなくちゃいけないかもしれないから――」

「……もしかして、伝染病か何かっすか!!? じゃ、じゃあ、あたしも感染してて、母ちゃんみたくぶっ倒れるの!?」

「判らない。判らないよ……もしそうなら、お客さんにも――」

 福士は頭を抱え、それからふっと康子の言葉を思い出した。

「……さっき、病院が凄く混んでるって言ったよね?」

「……ああ! そうなんすよ! なんか、病室がいっぱいとか看護婦さん愚痴られて、んで、救急車がすげー停まってて!」


 福士は即座に保健所に電話をかけた。

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