6話
6話
勇者たちの処刑を終えた俺は、再び人間の姿に擬態し直して人間の村へと戻った。
しかし宿に戻る前に武器の調達にでも、なんて思って商店街へと向かう途中、とてつもない光景を目の当たりにする。
「ほぉら! もっと早く歩かんかぁ!!」
そこにいたのは、五体のオーガ……に跨って移動する、五人の人間だった。
俺たち魔族の中でも一、二を争う程の体格を誇るオーガの全長は、およそ二メートル半。そんな巨体は人間を運搬するために利用されていたのだ。
首には服従の証と言わんばかりに首輪が取り付けられ、四つん這いで歩かされる彼らの身体には何度も鞭を打ち付けられたような痕が残されている。
(コイ、ツら……ッッ)
いますがにでも引きずり落として、この場で殺してやりたかった。手足をへし折って切り落としてから、オーガたちに踏みつけさせてやりたかった。
だが、ここで事を荒立ててもいいことはない。護衛のような勇者が二、三人付いているし、ここにいる奴らを一人も逃さずに殺して回るのは流石に、無理があった。
ここは、人間たちの中でも高位に属する貴族や、ひいては術士たちも住むと言われる城が位置している村だ。
ここで暴れて術士にそのことが行き渡れば最後。勇者よりも強い、それに加えて何人いるかも分からないそいつらに殺されるか、逃げおおせても接近するのが難しくなってしまう恐れがある。
(もう少しだけ、耐えてくれ……)
宿に戻るのは無しだ。これからコイツらの後をつけて、夜に事を起こす。
城の規模が大きかろうが、従者が何人いようが関係ない。オーガたちを奴隷として扱うアイツらは、全員……
(絶対に、殺す……っ!)
自分の奥底から溢れ出る怒りの感情を必死に抑えながら、俺は尾行を開始した。
◇◆◇◆
気付けばすっかり日は落ち、時間は午後八時半。
俺が後をつけ続けて辿り着いた場所は、大きな一つの城の前だった。
流石、成金の貴族だ。宝石をジャラジャラ身につけるような奴らなだけあって、城もかなりの大きさを誇っている。
「早く、助け出してやりたいが……」
近くの草むらに潜みながら移動して城の周り様子を伺った限りでは、まず城門の前には見張りの勇者らしき格好の男が二人。裏門には警備こそいないものの、侵入口が一切無くあるのは城壁だけ。
だが三階には開けたバルコニーのような場所があり、そこまで登ることができれば侵入は容易いように感じられた。
「せめて夜中にならないと、厳しいな」
まだ、数多くある窓からは灯りが幾つも漏れ出している。誰も逃さず殺すことを考えれば、やはり全員が寝静まった後。夜中に侵入するのが得策だ。
「仕方ない、か……」
オーガは一秒でも早く助け出してやりたい気持ちを抑え、物音一つしない暗闇の草むらで一人、俺はじっと全ての灯りが消えるのを待ち続けるのだった。




