5話
5話
「うぶお゛ぉ……え゛えぇ……」
あれから三時間が経った。男たちは未だ宙に吊られたままで、つい先ほどから急に暴れだしたり、かと思ったら鼻血を出しながら動かなくなったりと。明らかに身体に異常をきたし始めている。
それに悲惨なことに、この三時間面白いくらいに人が通らない。
もし他の勇者が通りがかったりしようもんならすぐにコイツらの身体を繋げた岩を落として溺死させるつもりだったが、どうやらその必要もなさそうだ。
アイツらの口元の布を取って救いを乞う姿を見てみるのも面白かったかもしれないが、今となってはもう遅い。あそこまで症状が進行しているのならば、恐らく叫ぶような声などとうに出なくなっているだろう。
「おーい。お前らそろそろ死んだかー?」
上からそう呼び掛けてみると、最後の力を振り絞ってか男たちは答えた。
「ご……ろじ……で……くだ……ざい……」
いよいよ限界のようだ。むしろここまできてまだ意識があること自体、かなり凄いことに思える。
……まあ別に、どうでもいいが。
「じゃあ、そろそろか」
いよいよ終盤。このままあと数分の命をあのまま散らせてもいいが、最後にもう一段階苦しんでもらおう。
「じゃあな、悪魔ども」
どうせ聞こえてもいないであろう声でそう呟いた俺は、男たちを宙に留めていた岩を本気で蹴り飛ばして崖から突き落とした。
するとものの数秒で湖の水面は波打ち、大きな水音を上げて岩と男たちをその最低部へと迎え入れて行った。
あれだけの重量を持った岩と繋がれた上に、身体には決してその身体を浮かせないための鎧。あとは数十秒ほど酸素のない空間でのたうちまわって……いや、もうそんなことをする体力も残ってはいまいか。
「さて、あっちはどうなったかな」
ブクブクと男たちが口から吹き出していた泡たちが水面から消えたのを確認した俺は、あの女の結末を見届けるため、ゴブリンの住む洞窟へと戻るべく歩みを進めるのだった。
◇◆◇◆
「……誰もいないな。どこ行った?」
洞窟の入り口に戻ってきて中へと足を踏み入れても、手下のゴブリン一体すら視界に入らない。普通見張りの一人でも置いておくものだと思うのだが、それすらできないほどにそもそもの数が減ってしまったのか、それとも────
「キヘヒャァッッ! アベビビャァッ!!」
どうやら、もう一つの考えが当たっていたらしい。
声がした方向に向かうと、やがて辿り着いたのは洞窟の最深部。そこでは全てのゴブリンたち、計二十体ほどが何かに群がり、奇声を発していた。
「お〝ぼえ〝ぇ……ぐぼ……」
その中心にいたのは、当然あの女勇者。今まさにあれは、凌辱されている真っ最中のようだ。
よく見るとその足元には大量の血に加え、女の腕が一本落ちていた。どうやらゴブリンたちの怒りは、犯すだけでは収まらなかったみたいだな。
「見に来る必要なんて、無かったか」
コイツらがもし甘ったるいことをしていたらどうしようかなんて思っていたが、杞憂だった。
女はこの先殺してもらうことも出来ず、ただコイツらの子孫繁栄のための″袋″として扱われ続ける。自らが殺した命の分……いや、それ以上の数の命を生み出すために存分に役に立ててもらえるはずだ。
勿論可哀想だなんて思わない。コイツにはこれからも後悔と懺悔の日々を送ってもらおう。
「さ、帰るか」
まあ良かったじゃないか。さっき俺が殺した男たちと違って本当に″命だけは″、助けてもらえたのだから。