51話
51話
夜。忌々しくも堂々と立つ城にて。俺たちは堂々と、正面の門からの侵入を果たしていた。
「ロ、ロイ様……本当に大丈夫なんですか?」
「ソワソワするな。堂々としていないと逆に怪しいぞ」
方法は至ってシンプル。日中のうちに街中で男女二人組の勇者に触れ、俺とルナは擬態条件を獲得。そしてその二人が来るよりも余裕を持って早く城門を通ったのだ。
門兵は二人。勇者である者達にはソイツらしか持っていないような身分証などは無いため、結局見られているのは格好。鎧や動きやすい戦闘服などを着て、それっぽい剣などの武器を持って堂々としていれば勇者の出来上がりである。
念のために俺たちが擬態した相手は消しておこうかとも考えたが、遠征会議前のタイミングで勇者が姿を消したとなればその犯人の潜入が怪しまれる可能性もあるため、やめておいた。あとはこのままソイツらが来る前に中にいる使用人もしくは衛兵等々のこの城に仕える者たちをどこかに監禁でもして、姿を頂いてしまえば完璧だ。
「使えそうなのは……よし、アイツらだな。行くぞルナ」
「は、はいっ!」
俺が視界に捕らえたのは、仕事を終え小休憩、といった感じの中年の召使い二人。小さなコテージで煙草を吸っているところを後ろから気絶させ、擬態を獲得するとともに服を剥ぎ取る。意識を失っている二人は掃除用具の入ったロッカーに押し込み、体を縛って南京錠でしっかりと施錠した。
あらかじめ薄着で来たため上からそれを羽織り、身体を変化させて格好を整える。隣に立っているルナが中年男なのはあまりに違和感があるが、それは俺が見るからだろう。
ルナは何やら身体の違和感にもじもじしていたが、バレぬよう気合を入れさせて。俺たちは勇者の集まる会場へと向かった。
◇◆◇◆
会場に着いて時間を確認すると、時刻は十九時五十八分。何気に時間を食ってしまっようだが、間に合っているのだから問題はない。
壁際に立つ俺たちの周りには、背筋を伸ばして力のこもった顔をする使用人たち。ルナも釣られたのか、緊張した様子だ。
「誇り高き百二名の勇者様方。この度はお集まりいただき誠にありがとうございます。ツバキ様、クレア様のみいらしておりませんが、始めさせていただきます」
舞台の上で正装をした女がそう告げて端に下がると、一人の男が壇上へと上がってくる。白髪の髪に、自らの権威を主張するかのような長い髭。アイツが、人間の中の王なのだろうか。
「勇者諸君。まずは私からも、ここに集ってくれたこと、嬉しく思う。早速ではあるが、本題へと入ろう」
すぅ、と小さく息を吸い、険しい顔つきで。男は、ゆっくりとした口調で話を進める。
「既に知っているだろうが、君達に来てもらったのは諸悪の根源……魔物を統べし王、魔王の討伐を行う為だ。明日から総勢百二名の諸君に加え、術士ガブリエフを加えた精鋭で一気に魔王城を叩く」
あらかじめ伝えられていた内容がほとんどだからか、勇者共は落ち着いた様子で話を聞いている。
(魔王城を叩く、か……。やはり場所はしっかりと把握しているわけだな)
「魔王の手下には魔王軍と呼ばれる軍が存在しているが、君達なら心配はいらないだろう。己の力を各々が発揮し、協力し、制圧に尽力してもらいたい。術士ガブリエフが、誰一人と犠牲者は出さない」
術士。勇者を召喚せし者。その強さは未知数で、情報は何一つない。その後も話は続いたが、ガブリエフとやらが姿を表すことは一度もなかった。
姿を見せれば確実に軍は鼓舞されるはずなのだが、それはこれまで俺がどれだけ探ろうとも情報が出てこなかったのと同様の警戒心、用心深さ故か。何よりこの会議に参加して俺が得られた情報は
1 遠征は翌朝五時から行われること。
2 魔王城への距離は勇者総勢を引き連れて朝に出て夜に着くほどの距離にあること。(移動手段は徒歩ではなく、馬車が使われる)
3 勇者の人数は百二名であり、一番の危険物資であるツバキが参加しないこと。
これほどのものだった。話が終わると会場には飯と高級なアルコール以外の飲み物が大量に運ばれ、やがてムードは宴会となった。そのタイミングで俺とルナは城を出て、帰路へとつく。
……後ろから忍び寄る二つの影の存在には、気付かずに。