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50話

50話



「なんだ……?」


 扉からから落とされ、床に落ちたのは一枚の紙。そこには短く、文章が羅列されている。


 それを拾い上げて読むと、こう記されていた。


『勇者遠征、概要


 勇者の者たちの活躍により、魔族は衰退の一途を辿っている。だが、その中で奴らの中に、「魔王」と呼ばれる存在と、その臣下である者たちによる軍が立ち上げられていることが判明した。

 しかし、その場所は既に特定されている。よって我らは明日早朝、全勇者、並びに術士「ガブリエフ」の力を持って進軍を開始する事を決定した。

 勇者の者たちは本日の二十時より遠征会議を我が城にて行う。これは我自らの勅命であることを踏まえ、勇者としての使命を全うするべく参加すべし。』


 勇者遠征。さながら、これは全ての勇者を総動員して行う大侵攻ということか。術士が同行するという時点で、それだけ大きな戦いになることを想定しているということだ。


「つまり、魔王が本当に存在していると、そう確信する何かを見つけた奴がいた訳か……」


 現在、勇者の召喚によりこの世界の魔族は九割以上が死滅したとされている。そんな中でこれまで名前が挙げられることなく、存在し続けていた魔王。加えて、その臣下である軍……魔王軍、とでも呼ぶべきそれらが、本当に実在しているのか。信じ難い話ではあるが、現に今それを潰すべく、勇者が動き出そうとしている。勇者に命令をする立場の何者かが、この紙を配り歩かせて動かそうとしている。


 思えば、これは初めての出来事だ。


 勇者と幾度と接触を繰り返し、殺し続けてきた俺だが、未だにその中核には触れることができていない。奴らを召喚している術士に加え、勇者を従わせる立場である者たちとの接触は愚か、情報すら掴めていなかったのだ。


 何故なら、奴らは決して表に出ることがないから。勇者という駒を使い、自らは決して動かない。過去に勇者から情報を吐かせようと拷問を繰り返した事もあったが、奴らは何も喋らない……いや、喋ることができなかった。個々の顔や性別、組織としての大きさや構成人数に至るまで、その全てを奴らは知らなかった。術士に至っては自らを召喚した存在であるというのに、奴らが知っていたのは自らを召喚した存在が″いる″ということのみ。


 しかし今回、ようやく奴らは動く。魔王軍を早期的に潰すために、焦って尻尾を見せている。


 ならば────


「参加しない訳には、いかないな」


 まずは今夜行われるという遠征会議に参加し、確実に情報を手に入れる。その上で潜伏し、次は遠征の中で内部から────あわよくば魔王軍との戦闘が始まり被害者が出てしまう前に、遠征そのものを崩壊させる。


 これは、チャンスに他ならない。


「ロイ様、お待たせしました! もういつでも動けますよ!! ……って、なんです? その紙」


「ルナ、お前も読んでおけ。今夜から俺たちは、勇者軍に潜伏する」


◇◆◇◆


 同日、同時刻。


「お姉ちゃんお姉ちゃん! 見てこれ!!」


「どうしたのよイリヤ、落ち着きなさい」


「いいから見てよこれっ!!」


「はいはい、分かったから」


 イリヤがそう言って私に見せたのは、一枚の紙。そこには明日の早朝から勇者が魔王城に攻め入ってくる事が、記されていた。


 だがそれは、″絶対にありえない″ことだ。


「魔王様はあの城の周りに、独自の結界を張っているはずよ。私たち魔族以外には、城の姿が視認できるはずがない」


 でも、だとしたらこんなことをする意味はない。この国の王が魔王という架空の存在を作り上げて、勇者に何かをさせようと……いや、違う。そんなことをする必要が、どこにも感じられない。


 つまりは、魔王軍の存在が本当にバレたということだ。あの結界をなんらかの方法で無効化した者がいるか、もしくは……


「もしかして、魔王軍に裏切り者がいるとかじゃ、ないよね?」


「……それはない、と信じたいわね」


 魔王軍の中に、人間の上層部と繋がっている裏切り者がいる。正直、どちらの線も私から見れば充分可能性のある事だ。しかし今は、そんなことを考えていても仕方がない。


 今重要なのは、勇者が攻め込んでくるという事。そして魔王城の所在を、確実に知られているという事。どちらも、急いで魔王様に伝えなければならない。


 あの方がいる限り私たちに敗北は無いはずだが、それでも術士が来るとなると犠牲無しで戦闘を終える事は難しいかもしれない。念には念を、というやつだ。


「急ぐわよ、イリヤ。魔王様に報告に戻るわ」


「勇者狩りの監視はどうするの?」


「夜にはここに戻ってこれるでしょう。どうせあの男のことだから、必ず遠征会議に紛れ込んで参加する。それまでに間に合えば問題無いわ」


「はーいっ!」


 

 そうして私たちは、大急ぎで魔王城へと報告に戻ったのだった。

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