49話
49話
「……ふにゅぁ」
「お、起きたのか。おはようルナ」
「…………」
昼。ダガーを研ぎながらルナの目覚めを待っていると、ようやくその目は開かれた。
丸く開いた目をルナは手で擦り、寝癖で少しはねた長い髪と共に、上半身をベッドの上で起き上がらせる。
「あの、まだ十一時ですよ? まだ寝てから四時間しか経っていないのに、なんでロイ様は元気そうなんです?」
「それは二時間前に起きていたからだ。起きてそれだけ時間が経てば、眠気など無くなっていて当然だろ?」
「いや、そう言うことではなく。私はなんでそんな短時間の睡眠で元気になれるのかを聞いているのですが……」
昨日、ルナは家に帰って風呂に入って。その後、ベッドに倒れ込むようにして寝落ちした。
俺もその後を追い、外が明るくなっていくのを感じながら目を閉じ、睡眠を始めたわけだが。
「身体が、この睡眠時間に慣れてしまったからな」
ここまで疲れ切ったルナが早々早くに起きることもないだろうと、俺は久しぶりに五時間は寝る気でいた。明らかに身体は疲れを溜め込んでいたし、このままだと身体機能に支障が出そうだと、そう感じていたからだ。
しかし、俺の身体はわずか二時間の睡眠で目を覚ました。疲れも、全快とまではいかなかったがかなり取れている。
昔は短い睡眠で起きようとしても疲労のせいで起きることは叶わず、毎日のように悪夢を見て目覚めていた。
そういえば、いつからだろうか。俺の身体が短時間の睡眠に適応し始め、こうして逆に長く寝ることの方が難しいと感じるようになったのは。よく考えれば……これも、逃げなのかもしれないな。
「ロイ様ぁ。もう少し寝ませんか? せめて、たまにはぐっすり眠らないと……」
「なら、ルナはもう少し寝ていてもいいぞ? その間に俺は────」
「わ、分かりましたよ! 起きます! 起きますから置いて行かないでください!!」
そう言ってルナは、急いで布団を跳ね除けて立ち上がる。置いて行かれる、と感じたのか原因か、変に焦っているルナはあたふたとしていて、必死に寝起きの頭を回そうとしている。
そんな姿に、少し……笑ってしまった。
「何を焦っているんだお前は。冗談だから、まずはその跳ねてる髪でも直してこい」
「へっ……うわぁ!? 見ないでくださいロイ様!!」
俺に寝癖を指摘され、顔を紅潮させてそう叫んだルナは大急ぎで洗面所へと駆けて行く。
と、その時。背後の扉から、コトン、と。何かが入れられた、そんな音が鳴った。




