表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
49/52

48話

48話



「────報告は以上です。奴隷市場を焼き払い、全ての奴隷を解放した″勇者狩り″は、再び人間の村へと戻りました」


「そうか。報告ご苦労だった、ミリア。引き続き監視を続けてくれ」


「畏まりました。では、失礼します」


 そう言って私は、部屋を出る。


 部屋、と呼ぶにはあまりに大きく、部屋らしいものは何もない空間。曰くそれは、あのお方……魔王様のために作られた、もはや祭壇とも呼べる場所である。


「お疲れ、お姉ちゃんっ! 魔王様への報告、ちゃと終わった〜??」


「ええ、イリヤ。引き続き監視を続けてとのことよ」


 私がそう言うと、イリヤは露骨に嫌そうにして顔をしかめる。やはり、魔王様への報告は私一人で行って正解だった。この子はすぐこうやって顔に出るし、今の顔を魔王様の前でされたらと思うと、背筋が凍る。


「勇者狩り、かぁ。ずっと監視を続けて思ったけど、正直私達″魔王軍″の敵になる要素なくない?」


「まあ、そうね。勇者を殺すという目的は一致しているし、恐らく敵対する可能性は低いわ。でも……あの男は、すぐ仲間に引き入れるには不気味すぎる」


 勇者狩り。本名はロイ。この男は既に何十もの勇者を、ありとあらゆる方法で残虐に殺した魔物。


 時には身体に水を流し込み続け水中毒で殺し、時には水に沈めて殺し、時には地下牢に幽閉して餓死させていた。


 その猟奇的とも取れる勇者に対する行為を繰り返すうちに私たち魔王軍の中で付いた異名が、勇者狩り。現在では要注意人物として、私とイリヤが監視に当たっている。


「そうかなぁ。確かに前まではただ頭のネジが外れた人って感じだったけどさ? ほら、闘技会のあとに一緒に住むようになった女の子。えっと、名前は……」


「ルナ、だったかしら?」


「そう、ルナちゃん! あの子と関わり始めてから、少し雰囲気が優しくなったと思わない?」


「いや、あなた単純すぎるでしょ。それってただルナと関わってからまだ勇者を殺す事案が起こっていないからにすぎないでしょう?」


 ただ一人の女と関わったくらいで、そう簡単に心の奥底までが変わるわけでもないだろう。


 むしろ私から見れば、おそらく過去に何かしらを勇者に奪われているであろう勇者狩りに、触れてはならない地雷が増えたにすぎない。ただでさえ何をするか分からない男だというのに、もしルナが目の前で傷つけられたりでもしたら……。


「……さて、無駄話はここまでよ。そろそろ、監視の任務に戻りましょう」


「えぇ〜、また人間の姿にならないといけないのぉ? あんな脆くて弱い身体になるの、嫌だよぉ……」


「ワガママ言わないの。ほら、行くわよ」


「ちぇぇ〜」


 私たちは、双子だ。同じ刻に、同じ母から生まれ……そして、同じ魔力を遺伝によって引き継いだ。


 その魔力の名は、「吸血」。吸血鬼である私たちは、対象から直接血を吸うことによって、その相手の姿へと化けることができる。


 だが、これは勇者狩りの擬態のように万能な魔力ではない。


 まず発動条件として、吸血により相手を殺す必要がある。血を媒介とし、生体情報をそのまま自らの身体に流し込むことによって成されるこの魔力の発動には、必要な血液が膨大。必然的に、相手を殺すほどまで血を吸わなければ発動しない。


 加えて、あくまで化け得られるのは容姿のみ。魔力のコピーなど、当然できない。というか、できる勇者狩りの魔力の方こそが異常なのだ。


「はぁ。まだずっと監視を続けなきゃいけないなんて、しんどすぎるよぉ」


「何よ、疲れているのなら修復を使えばいいじゃない」


「私が言ってるのは精神面! この任務殆どの時間暇なんだもん!!」


 ぷくぅ、と頬を膨らませながらそう訴えるイリヤは、文句を垂れながらも背中の羽を広げた。


 ちなみに、先程言っていた修復というのは、彼女の二つ目の魔力である。


 本来魔力というものは一つの身体に一つまでしか宿らないものなのだが……イリヤはどうやら、特別体質だったらしい。魔王軍の科学者たちが調べてもその四文字で終わらされてしまうあたり、本当に未知の出来事なのだろう。


 修復の効果はとても単純なもので、外傷と体力の回復。致命傷まで治すことは出来ないが、多少の傷であれば全快するし、体力も修復をかけ続ければ長い時間減らさず保つことができる。シンプルだが、強い。


「もう、早く行くよお姉ちゃん! どうせ行かなきゃなんだったら早くしよ!!」


「切り替え早いわね……。まあ、いいわ。やる気になってくれたのならそれで」


 


 私はそう呟き、イリヤの後を追うように、飛んだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ