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44話

44話



「あら? あらあらあらぁ?♡ ルナちゃん、もしかして私と一対一で戦う気なのかしらぁ〜?」


「……もう、私はあなたの奴隷じゃない。そのことを証明するために、あなたを……殺します!」


 震えた手先に力を込め、ルナは隠し持っていた暗器を三つ取り出し、全てを付与で宙に浮かせる。


 それは、俺との特訓の中でルナが編み出した、一つの戦闘スタイルであった。


「ふふふっ♡ ルナちゃん、魔力に目覚めていたのね♡」


 女はそう呟いて嬉しそうに手元の奴隷を背後へ捨てると、腰に掛けていた鞭を構えた。


 まだ手元で長さを調節してかなり短くしているようだが、それをやめてしまえばその最大の全長は2メートルはあるように見える。


 鞭にしては、規格外の長さ。そのうえ戦闘中においてその長さが変化していくとなれば、十分に厄介な武器だと言えるだろう。


「ロイ様。どうか、見守っていてください……」


「っ……ルナ……」


 俺は手助けしてやりたい気持ちを堪え、身を後ろに引いた。それを見てルナは、安堵したような表情を一瞬見せて女と相対する。


 三本の暗器に、手元の一本の剣。このスタイルは近接戦闘において付与を最大限利用しつつも手元の剣に攻撃方法を絞る手法であり、暗器は相手の意識の錯乱と細やかな防御に使われる。


 本来であればルナの付与で操れる最大武器数は十を超えているが、近接において剣捌きの質を落とさずに操れるのは、三本が限界という結論に至ったのだ。


「────はぁッ!!」


 刹那。ルナは宙の暗器と共に切り込み、女の間合いへと入っていく。おそらくは、速攻で懐に忍び込んで勝負を決する狙いか。


 だが────


「ごめんね、ルナちゃん。この勝負、私が負けることは″絶対にない″の」


 女の手元……左手の中指で、赤い光が鈍く光輝く。


 その瞬間、ルナの動きは完全に停止した。


「ッッ!?」


 剣を振りかぶる、その寸前。まるで強制的に身体の自由を奪われたかのようにその体制のまま攻撃の手を止めてしまったルナは、動揺に顔を歪める。


「あは、あはははっ♡ ル〜ナ〜ちゃんっ♡ ご主人様に剣なんて向けちゃダメでしょぉ? ほら、早く鞘に戻して?」


「ッ……ぅぁ、うッッ……!」


 キィィ、カチッ。ルナはぎこちない動きで自ら、女の命に従って剣を仕舞う。先程までの、恐怖による支配で自ら行った行動ではない。顔を見れば分かる。今、アイツは明らかに″身体の自由のみを″奪われているのだ。


「ご、れは……!」


「ええ。ルナちゃんを躾けるための、隷従の指輪による効果よ♡」


 隷従の、指輪……?


「ふふふふふっ♡ 私の、可愛いルナちゃん。少し合わない間に他の男に靡いちゃったみたいだけど、この指輪があなたと私を永遠に繋いでいてくれる♡」


 魔力が解除されたのか、宙に浮いていた暗器たちもすぐに床へと落ち、それを見て女は愉悦の表情でルナの頭を撫でる。


「どうやらこの指輪は、魔力の自由も奪えちゃうみたいね。ほんと、便利だわぁ〜♡」


 ルナはもはや、完全に女の手のひらの上。身体の自由も、魔力の自由も。その全てを失い、屈辱的に顔を歪めることしか出来てはいなかった。


 これは、最も俺が恐れていた状況だ。ルナが戦闘不能になり、更にあの女の手中に収められた。これでは、実質的に人質を取られたと考えて何ら変わりない。


「ルナちゃん。ルナちゃんルナちゃんルナちゃんっ♡ ずっと、ずっともう一度会いたいって……四六時中、あなたのことばかりを想っていたわ。こんな形での再会になってしまったけれど、刃を、向けられてしまったけれど。それでもまだ、私はあなたを愛しているわ♡」


「触ら、ないで……ください……。私は、もう……あなたの玩具じゃ、ない……っ!」


「玩具だなんて思っていないわ。ルナちゃんは、私にとっては最愛の娘同然。大切な、大切な人だもの♡」


 そう呟いてから、女はルナに「そのまま動かないでいて」と命じて、俺の方を見つめる。どうやら、俺抜きで楽しみたいようだ。


「さて、あとはあなたね。魔人さん、私は今とっても気分がいいの。ルナちゃんを置いてそのまま真っ直ぐ帰ってくれるなら、見逃してあげても────」


「却下だ。お前のような奴に、ルナを明け渡すなんて出来ないな」


「……あっ、そ。ほんと、私あなたみたいな空気読めない人、大っ嫌いだわ」


 コキ、コキッ、と首を鳴らしながら、本当に面倒臭そうな態度で、女はそう言って俺を睨みつける。


「そうだな。俺も、お前みたいな奴は大嫌いだ。……でも同時に、お前がそんな性格で良かったと思っているよ」


「は? 何それ。気持ちの悪いことを言わないでくれる?」


 俺はこの女とルナが共にここで主従関係としてどのように過ごしていたのかなんて、当然知らない。ルナがどんなことをされてきて、どれだけ屈辱的な気持ちを味わったのかも。


 だが、これだけは言える。


「そんな指輪一つでルナを支配できた気でいるなら、大間違いだぞ。調教師」


 シッ、ブシッッ────


 瞬間、女の手先を、黒色の物体が飛来する。


 やがてそれは鈍い光を放つ指輪……それを身につけている中指までを的確に切り落とし、一瞬のうちに、床を血で染めた。


「え? あ、れ……? 私の、指?」


「遅いぞ、ルナ。虐められるかと思ったじゃないか」


「すみません、ロイ様。物音を立てずにというのは、少々難しかったもので」


「なっ、なぁ、え? 指……私の、指ぃ!?」


 ようやく現状を把握したかと思うと、女は痛みで絶叫した。その様子を背後から眺めながら、ルナはクスクスと笑みを漏らす。


「ふふっ。何情けない声出してるんですか、ご主人様ぁ?」



 本当に手のひらの上で踊っていた者は、誰だったのか。それを知った調教師は一人の元奴隷の笑みに包まれながら、絶望に打ちひしがれたのだった。

しばらく投稿お休みしてすみませんでした。

これからは週に一度は更新していこうと思っておりますので、引き続きご愛読よろしくお願いします。

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