41話
41話
ルナの作った晩飯を食い終え、全ての武具の最終メンテナンスをしながら、俺たちは道順を確認していた。
まず、向かうは城内が空になっているはずのあの城。何者かがいる場合は上手く対処し、そして城内へ侵入。その後に地下へと続く階段から奴隷市場へと入り、囚われている奴隷たちを全員助け出したうえで市場は破壊する。
破壊方法はまだ具体的なものを決めれていないが、今俺が考えてるのは二つ。
一 全て燃やす
二 全て物理的に壊して崩壊させる
この方法だ。できれば一つ目が一番楽で助かるのだが、最悪の場合二つ目の策に則って擬態と付与を駆使した破壊行動を行う。まあ当然、隠密にだが。
「さて、準備は整ったな。行くぞ、ルナ」
「は、はい……!」
そして時計の針が一時を指した頃。俺達は家を出て、城への道のりを歩き始めた。
前の体感時間を考えれば、おそらくかかるのはニ、三十分か。大した移動時間ではないな。
そう考えながら二人で言葉も交わさず歩き続けると、やがてすぐにその城は視界へと映った。灯りは付いている気配は無く、どうやら誰もいない状態が維持されているようだ。
「さて、問題は奴隷市場へと続く地下階段だが……」
「ロイ様、心当たりでも?」
「ああ。城内の連中を最後に殺した場所が、奴隷のオーガが繋がれていた地下牢でな。一番可能性が高いのは間違いなくその付近だろう」
人の気配が一切しない城内に難なく侵入した俺達は、地下への扉を隠した場所の前へと移動する。どうやらあれからその扉が開けられた痕跡は無く、殺したはずのアイツらが一人でも逃亡したということも無さそうで少し安心した。
「擬態」
念のために厳重に開かないようにしていたは俺自身も開けることはできそうになかったので、擬態を用いて扉を砕いた。これで、地下への道は開かれる。
「いくぞ、ルナ」
持ってきていた木の棒とマッチで簡易的な松明を作った俺は、ルナを先導するように明かりを灯して階段を降りていく。
だがその後ろに、ルナは付いてきてはいなかった。
「あ、あっ……ぅ……」
「ルナ!!」
階段を降りることなく地上で膝から崩れ落ちたルナの元へ駆け寄ると、その細い身体は軽い痙攣を起こし、酷く震えていた。
「は、ぁっ……はぁ……っ! だ、大丈夫です……ちょっと、立ちくらみがしたたけで……」
おそらく、何年も奴隷として地下に身柄を封じられていたことによる拒絶反応か。奴隷市場を目の当たりにするまでもなく、ルナの身体は目の前の地下へと続く階段にすら反応を示した。本人は大丈夫だと言い張っているが、俺には既に満身創痍なように見える。
「止めないで、ください。これは私自身が乗り越えなければいけないことなんです。この先、ロイ様と共にあるために……」
正直なところ、俺はこの先にもうルナを連れて行きたくはなかった。
このまま地下に入って、そして奴隷市場を目の当たりにして。これまで抑えられていたトラウマが一気に甦ったら……? 内容は知らないが、先程見ていたらしい悪夢の内容をもう一度思い出したら……?
(ルナが、ルナでなくなってしまうかもしれない……)
だがそんな気持ちと同時に、ここで俺がルナを止めて本当にいいのか。そんな気持ちも、心の奥底から湧き上がってきていた。
ルナは今たしかに、己と戦っている。決して目を逸らさず、真正面から向かい合っている。
自分の過去から逃げて、逃げて、逃げ続けて。そんな俺のような人生は、ルナには送ってほしくはない。であれば、この工程は必要不可欠なのではないか。過去に救えなかった者達を、誰でもないルナ本人が救うことによって、何かを変えることができるのではないか、と。
「お願い、します。私を……連れて行ってください……」
「っ……」
不安は、拭い切れはしない。だがここで俺がルナの成長を止めてしまうなんてことは……絶対に、あってはならない、か。
「分かった。だが、絶対に無理はするなよ」
連れて行くと決めたからには、必ず俺がルナを守る。俺にできるのはルナの身を守ることと、ルナの精神のリミッターになってやることだけだ。
もし予想外の脅威が襲ってきたならあらゆる手を尽くしてその身を守り、ルナ自身の精神が壊れてしまいそうになった時は……容赦なく、地上へと連れ出す。
俺がしてやれるのは、せいぜいその二つだけ。あとの全てはルナ、お前次第だ。




