40話
40話
「……ナ! ルナ!! おい、ルナッ!!!」
「……ロイ、様?」
ぼやけた視界に突然映ったのは、私の肩を激しく揺らしながら名前を呼んでくれるロイ様の姿。
どうやら私は、悪い夢から覚めたらしい。
「やっと起きたか。急に暴れ出すから、心配したんだぞ」
「え? 私が、暴れてた……?」
その言葉を聞いて周りを見渡すと、私が被っていたはずの布団は部屋の端に。枕は中の綿が飛び出て、爆発でもしたかのように散らばっていた。
それに加えて右手の中で強く、とても強く握られたシーツ。瞬時に、私が何をしでかしたのか理解した。
────いや、理解″させられた″。
「……うっ」
心が段々落ち着き始めると、次は先程まで見ていた夢がフィードバックし、私の脳内を駆け巡る。
ナツ、お父さん、お母さん。そして、私が殺した勇者達。彼らの最後の表情と、残虐な死にざま。その全てを直接脳内に叩き込まれたかのような衝撃に、激しい嘔吐感と言葉に出来ない気持ち悪い何かが、込み上がってくる。
「落ち着けルナ。ほら、水だ」
「ありがとう、ございます……」
水の入った容器を手渡され、それに口をつけてゆっくりと喉を潤していく。まだ倦怠感のようなものは残るものの、何とか嘔吐感は引っ込んだように思えた。
(なんでいきなり、あんな夢を……)
これまで、あんな夢を見たことなんて無かった。昨日だって熟睡したけれど、夢なんてこれっぽっちも見てはいない。
それだというのに唐突にこの悪夢を見たのは、やはり私がこれから″あの場所″に戻ろうとしているからか。無意識のうちに自らの心の奥底がそれを拒絶していたんだとしたら、なんて情けない話なんだろう。
「ごめんなさい、ロイ様。ご心配を、おかけしてしまいました……」
「いや、構わない。悪夢にうなされる気持ちは俺もよく分かるからな」
「え……?」
ロイ様も、今の私のように悪夢にうなされた経験が……? もしかしてロイ様がほとんど睡眠を取らないのは、寝るたびに悪夢が繰り返されるからなのだろうか。
もし、仮にそうなんだとしたら。そんな状態で、復讐を続けているんだとしたら。いつか、ロイ様は……
「ルナ? どうした、まだ顔色が悪いぞ。本当に大丈夫か?」
「へ!? あ、はい。すみません、少し考え事を……。でも本当にもう、大丈夫ですから」
いや、違う。ロイ様がそうなってからどうするかじゃない。私は、″そうなる前に″止めなければならないのだから。そんなことも出来なけれは、私はここにいる意味がない。
そのためには、まずは私が。自分の中に染み付いたトラウマを全て克服して、必ずロイ様を隣でお支えし続ける。
だから、こんな情けないことで止まってはいられない。私のわがままに付き合わせてしまっているというのに、足手まといになるなんてことは絶対に私自身が許せないから。
「晩ご飯、作りますね。夜中には動き出すわけですし、軽めのものを」
心配そうに私を見つめるロイ様にそう伝えた私は、決意を胸に一人、部屋を後にしたのだった。




