39話
39話
「……おぉ、起きたか」
「ここ、は……?」
次に私が目覚めて目の当たりにした光景は、檻の格子と自らの手に繋がれた鎖。そして、格子の向こう側でこちらに視線を向けている一人の男。
「ここは、奴隷収容所。君達のような魔族の奴隷を収容し、そして調教する場所だ」
奴隷……調教……。
改めて自分の置かれている状況を確認すると、確かにその様は奴隷そのものだった。
手枷を嵌められて後ろの壁と鎖で繋がれた両腕に、見窄らしい布切れのような服。
あれから私は、どうしてこうなったのだろう……。
「本来ならこうして私自らが奴隷と言葉を交わすなどあり得ないことではあるが……君は、特別だからな」
はぁ、とため息を吐きながら、男は少し疲れたような様子で言葉を続ける。
「君の村に送られた勇者、計二十八名。その全員が無惨な姿で発見された。それも、発見されたのは君の家の前で二十七人、そして君の家の中で……おそらく、一人。こちらに関しては、あまりに死体の状況が酷すぎて全く判断がつかん」
男の話を聞きながら、段々とぼやけていた意識がハッキリと覚醒していく。
そうだ。私はお父さんとお母さんが死んでいるのを目の前で見て、それで……。
「さて、本題に入ろうか。あの村で勇者達が死ぬ前に奴隷として捕獲していた者達を除いて、君はおそらく唯一の生き残りだ。そんな君が勇者達の死体に囲まれて倒れていたのをこうして拾ってきた訳だが……一連の殺戮は全て、君が行ったということでいいのか?」
これが、私のことを特別だと言った理由か。
私はこれから、どうされるのだろう。あれだけ頑張って生き残ったというのに、結局は殺されるのだろうか。
でも……
(私は、生きたいの……? それとも、死にたいの……?)
私のこの先の人生にはもう、何もない。
愛情を与えてくれるお父さんとお母さんも、一緒にいて楽しいと思えた友達のみんなも。もう誰も、この世にはいない。
なら、生きていたって……意味がない。
「はい。私が……やりました」
もういい。このまま私はここで殺されて、あの世でもう一度みんなに会いたい。何もない人生を、私は奴隷になってまで生きていたくはない。
「ふむ。そうか……」
男は私の言葉に対して驚きもしていない様子で、そう呟いて椅子から立ち上がった。
そして横を向き、誰かと一瞬を言葉を交わしてこの場を立ち去っていく。
「欲しかった答えは聞けた。もう、私は″これ″に用は無い。あとは、君に任せよう」
「ええ。お任せを」
カツン、カツンと足音を鳴らして次に私の前に現れたのは、一人の女の人。紫の髪を靡かせ、露出の多い黒い服を着たその人は、腰に鞭を携えていた。
「ふふっ、なんて可愛らしい。私、あなたのこと気に入っちゃったかも♡」
先程の男よりも何倍も優しい声をしているというのに、全身から鳥肌が止まらない。純粋な怖さとは違う、何か異質な……
「これからよろしくね、ルナちゃんっ♡」
常人とは違う……目の奥に底知れぬ闇を孕んだ、異常者だ。




