3話
3話
女勇者の身柄を引き渡してからすぐに洞窟を出た俺は、残りの男勇者二人のもとへと向かった。
あえて女の装備は先ほどの湖に放置してきたため、二人はまさに今女を血眼で探している最中だ。
「くそっ! こっちもいないぞ!!」
「早く見つけて助け出さないと!!」
当然すでに女がゴブリンに連れ去れたことなど知らない二人は、焦りを面白いほどに顔に出しながら走り回っている。まあなんとも、滑稽なものだ。
「さっさと、あいつらも潰さないとな」
せっかく今ならあいつらは別々の場所にいるのだから、早めに一人ずつ。効率よく戦うとしよう。
「ふっ────」
大きく息を吸い、肺に大量の空気を送り込む。
刹那、木の上での待ち伏せから一気に跳躍して飛び降りた俺は、一人の勇者を背後から襲った。
「ッ!?」
そしてすかさず、腰元のダガーを抜いて一閃。その一瞬にして、男の両眼に抉るように深く切れ込みを入れた。
「あ〝あ〝ぁッ!? い〝っ────!!」
男は反射的に声を上げるが、もう遅い。もう一人が助けに来る前にその身体をゴブリンから貰っておいた縄できつく縛りあげると、俺はそのまま縄を近くの木で一番丈夫そうな枝に括り付け引き上げてから、目の前の高さまで来た足の健を容赦なく切り取って身動きを完全に封じていく。
当然男の断末魔のような悲鳴に反応して駆けてくるもう一人の男。だがこちらも血まみれで縛られている仲間に気を取られている隙をついて、同じような方法で簡単に処理した。
「う゛う゛あ゛……あ、あぁ……」
やはりそれなりの傷を負わせたせいか、二人とも中々に五月蝿い。処刑場所まで連れて行くときにずっとこうやって唸られてても耳障りだな。
そう思い女の時のように催眠薬を飲ませようと思ったが、今こいつらは両眼を潰され、加えて足の健まで切り取られているのだから、痛みのせいで眠れるはずがない。
なので、俺はゴブリンのやり方を見習うことにした。
「ん……これくらいのがいいか」
両手でちょうど持てるくらいのちょうどいいサイズの石を持ってきて、男たちの頭に向けて振り下ろす。
ボゴッ、ボゴッ、ボゴッ、ボゴッ、ボゴッ。
一発で都合良く気絶してくれるわけもないので、四、五回ほど殴ってみた。
するとあっという間に二人はおとなしくなり、額に血を垂らしながら意識を失って大人しくなった。まあまだ余韻で身体が痙攣しているし、死んではいないだろう。
血がベッタリとこべりついた石を捨てて念のために男たちの脈を確かめてもみたが、弱々しいもののギリギリ生きてはいる。流石は勇者様。なんと丈夫で素晴らしい身体なのだろう。
なんで頭の中で皮肉めいたことを言ってみながら、すぐに現実を見てため息をつく。
「……はぁ。コイツら、無駄に重いから疲れそうだな」
腰には剣を身につけ、鎧を装備している二人。それらを外してしまえば楽に運べるかもしれないが、これからすることを考えればできない選択だ。
俺に瞬間移動の能力やメチャクチャな筋力があれば……なんてくだらないことを考えるが、ないものねだりをしてもどうにもならない。
仕方なく二人の髪を掴んで全力で腕に力を入れた俺はゆっくりと、木から落とした二人を引きずりながら目の前に見えている″剥き出しの岩が連なる高所″へと、歩みを進めた。




