37話
37話
キィィィィンッッ!!
刃と刃が衝突し合う音が、部屋中に響き渡る。
「ははッ! 見かけ倒しの雑魚能力じゃねぇか!!」
あまりに基礎的な運動能力に差がありすぎて、私自らは懐にはいれないどころかあの剣を避けることすら叶わない。
私は宙で動かす剣を、防御に回すのが精一杯だった。
────操れる物が、剣だけのうちは。
「本当に見かけ倒しかどうかは、これを喰らってから判断した方がいいと思うよ♪」
「あァ? ってテメェ! それッッ!!?」
剣だけで防御が足りているということは即ち、私が自由に動けることを意味する。
確かに生身では意味がないだろう。だが、この魔力を持ってすれば近付かずに攻撃することなど、実に容易いことだ。
「っ、あっつぅ……」
私はお父さんの誕生日プレゼントにと予め用意していたライターを引き出しから取り出し、火を付けてそれに指で触れた。
指先が焼かれ痛みが走るが、それは一瞬のもの。一度触れてしまえば、あとは簡単だ。
「燃えちゃえ♪」
魔力によって操ることが可能となった火はライターから離れ、尚も吹き出し口から出続ける火を吸収して大きくなっていく。
それが私の手元を離れ男に向けて放出されるときには既に、その大きさは私の顔よりも肥大化していた。
「ギ、ァァァッッ!? アアァァァァァッッッッ!!!」
それが男の身体を正面から包むと、すぐに髪や皮膚、鎧の内側に着ていた服へと着火し、大きな炎へと変貌を遂げてその身を焼き尽くしていく。
「どう? 熱いでしょ? でもまだ、それだけじゃ足りないよねぇ」
私は泣き叫ぶ男の右腕を、切り落とした。
「腕!! ウデガァァァ!!? ヤメ、ヤベデ────」
左腕を、切り落とした。
「ヒィアァァァァァッッッ!?!?」
「ふふ、死んじゃう? 死んじゃいたい? でもダメだよぉ、そんな甘えた事言ってちゃ」
男にそう告げると、私はその身を焦がしている炎を手元に引き戻し、小さく圧縮して宙に浮かせた。
かなり早めに助けたのでまだ大丈夫なはずだが、ビクビクと大きく痙攣した男の身体は、貧血からか今にも死んでしまいそうだ。
「もう、死んじゃダメだって私言ったよね? 聞こえなかった?」
流れ続ける血に触れ、少量を男の腕の切断部に当てると、血は止まった。いや、止まったというよりは堰き止められた、か。何にせよ、これでもうしばらくは生きていてくれるはず。
「お、俺が……悪がっだ……もう、許じ……」
「はははっ、許すわけないじゃん。あなたを許したら、お父さんとお母さんは帰ってくるの?」
「う〝、あ〝ぁっ……」
男の顔が絶望に歪む。お父さんとお母さんも、死ぬ寸前はこういう顔をしていたのだろうか……? あ、ナツはしていたっけ。
まあ今はそんなこと、どうでもいいんだけど。やることは一つ。既に、決まっているのだから。
「楽しいのはここからなんだから、まだまだ死んじゃダメだよ。あなたはこれからちゃんと苦しんで……いっぱい、いっぱいいっぱいいっぱいいっぱいいーっぱい痛いのを味わってから、死んでよね」




