34話
34話
(やっと、やっと会える……!!)
私は、必死に玄関に向かって走った。
二人とも無事だった。私のことを迎えに、帰ってきてくれた。その事が、本当に嬉しくて。
でも────
「え……? 何、これ」
玄関にたどり着いた私が目にしたのは、扉に貼られた貼り紙。その紙はとてもハサミか何かを使って切られたようなものではなく、手で雑に千切られたかのような、歪な形。
そしてそこには汚い字で、『絶対に開けるな!』と書かれていたのだ。
「帰ってきてくれたんじゃ、ないの……?」
私はなんだか急に怖くなって、物音を立てないようにそっとその扉に近づいて覗き穴を覗いた。
「ひっ────!?」
するとそこに居たのは、お父さんでもお母さんでもない……ただ一人の、血塗れの男のみ。
コン、コン、コン、コン……ドンッ、ドンッ、ドンッ、ドンッ!!
私の気配に気付いたのか、それとも開かない扉に痺れを切らしてか。男は扉を叩く力を、次第に強くしていく。
(誰、なの……?)
その人に、大きな耳はない。間違いなく、みんなを追い回している人間のうちの一人だ。
そんな人が、全身を血で真っ赤に染めて家の扉を叩いている。そんな異常な光景に私が感じた感情は、ただひたすらの……恐怖だった。
私は喉の奥から溢れ出そうな声を必死に抑えて、もう一度走って自室へと戻る。そしてもう一度カーテンを開け、地獄の光景の中で二人を探し続けた。
しかし一向に、その姿は見つからない。
そして辺り一面を見渡す中で、私は一人の男の子を目の当たりにする。
「ナツ……? あっ……ダメッッ!!」
その男の子は、私が小さな頃からよく一緒に遊んでいた友達で、一番の仲良し。つい数時間前まで、一緒に遊んでいた子だったのだ。
そんな子が今目の前で、長い剣を振り回す男に追われていた。
「逃げて……逃げてっ!!」
窓越しに身を乗り出すように応援を続けても、大きな身体をした大人からナツが逃げられるはずもない。
やがてナツはすぐに捕まり、そして────
「ッ……!!」
その細い首を、両断された。
涙を流し、絶望の表情をしたまま。ナツの頭が、大量の血飛沫と共に宙を舞う。
「ア、ッ……っぅっ……」
宙に浮いた頭が地面に落ちるまでの時間は、わずか数秒。そのはずだと言うのに、私にはそれは数十秒にも感じられて。
不思議と私の視線は、涙を流しながらこちらを見つめる、ナツの目に釘付けになっていた。
その時には既にナツは絶命していて、声なんて出るはずもない。分かっているはずなのに……
『なんで、助けに来てくれなかったの?』
そう、言われたような気がして。やがてナツの頭が地に落ち、踏みつけられて肉塊へと変わるまで私は、その光景から目を逸らすことが出来なかった。




