32話
32話
それから俺達は、奴隷市場に潜入するための作戦を立てるための会議を始めた。
「まず基礎情報として、奴隷市場はこの村の地下に存在しています。奴隷の調教時間の関係上から、日中しか営業はしていません。なので潜入するのは、深夜が妥当ですね」
地下、か。どうりで俺が見たこともないはずだ。流石、貴族のためだけの闇市といったところだろうか。
「次に、潜入方法です。お金持ちの貴族専用の奴隷市場の入り口は、蟻の巣のように貴族の城全てから伸びています。ですので、潜入のためにはどこかの城に忍び込んでから地下へと続くその入り口を見つける必要が────」
「あ、すまん。話に水を差すようで悪いんだが、それってどの城でもいいのか?」
「え? あ、はい。恐らく、全ての城から繋がっているかと……」
それは実に好都合だ。どの城でもいいというのなら一つだけ、既に無人となっている所が存在しているではないか。
「なら、俺が前に城内の連中を皆殺しにした城がある。潜入はそこからがいいだろう」
あの城からであれば、恐らく侵入は容易い。唐突に城から人間が全員消えたのだから誰かが調査に向かったりしている可能性は大いにあり得るが、だとしても人数はたかが知れているはず。少なくとも他の城から行くよりはよっぽど良い。
「では、その方向で行きましょう。決行時間はどうしますか?」
「ん、そうだな……。じゃあ、夜中の一時でどうだ? あまり遅くしすぎても日が昇ってしまうしな」
「分かりました」
そう答えたルナから一瞬目線を外して時計を見ると、時刻は午後三時。ここを出るのは約十時間後か。
俺は構わないが、ルナは恐らく深夜行動には慣れてはいないだろう。そのことも考えれば、ある程度眠る時間を確保しておいた方がいい。
「ルナ、お前は仮眠を取っておけ。今日はかなり早起きして朝飯を作っていたようだからな。睡眠不足で体調に変化が出ては困る」
「そう、ですね……。ではお言葉に甘えさせて頂きます。ロイ様はどうされるのですか?」
「俺はいいから、お前だけ寝ておけ。十時には起こすから、そこから軽い食事をとって────」
「そ、そんなのダメです! ロイ様も、ちゃんと寝てください!!」
急に立ち上がり俺を心から心配するようにそう叫ぶルナ。これは俺が何を言っても引きそうもない。
「分かった。じゃあ俺も少しだけ仮眠を取るから、お前には一時間早く、九時に起きてもらう。それでいいか?」
「は、はい。ではそれで……」
本当はもっと寝てほしいと言わんばかりの顔をするルナに早く寝室に行けと急かして、俺は一人大きく息を吐きながら水を飲む。
(睡眠、か……)
あの夢を見るようになってから俺は一、二時間の睡眠しか取らなくなったわけだが、今ではもう身体が完全にそのスタイルに慣れてしまっている。今更何時間もぐっすり寝るというのは、俺からすれば逆にずっと起きているよりも難しい。
「さて、ルナが起きるまでの間に準備をしておくか」
誰もいない空間で一人そう呟くと、俺は今夜に向けて武具の手入れを始めたのだった。




