29話
29話
戦いを終えて家に戻った俺たちは、お互いの魔力について詳しく話し合った。
「私の魔力、付与は物に他の物体の姿や性質を与えたり、操ったりできるものです。生物には効果がありません。有効範囲は大体五十メートルくらいですね」
ふむ……。やはり、とても強力だ。そして何より、俺の擬態との相性がかなり良い。
先程俺が即興で行った擬態付与は、まず身体に擬態で纏ったものをそのまま付与の力を使って木刀へと流した。
本来であれば生物を纏うことなどできないはずの付与と、逆に生物しか纏えない擬態と組み合わさったことで、お互いの良い部分のみを吸収した形と言えるだろう。
ただでさえこれまで飛び道具にしかたやることのできなかった遠距離攻撃手段の不足を解消できる上に、魔力の融合による攻撃手段の増加。良いこと尽くしだ。
「お前の魔力のことは良く分かった。そこで、だ。ここからは俺の擬態と組み合わせて、出来ることを増やしていきたい」
擬態付与によって、擬態によって纏ったものが武器に流せるようになった。
これは生物を無機物に纏った形になる訳だが、同時に″魔力を無機物に纏わせる″ことも可能になったと推測できる。
では、ここで次の段階だ。
「ルナ。俺の魔力を付与の力によってお前に流せるかを試してみたい。構わないか?」
「え? ロイ様の擬態の力を、私に……?」
もし受け皿の制限が、無機物のみに無いとすれば。それは即ち、俺の魔力をそのままルナに付与できる事を意味する。
「ぜひ! ぜひお願いしますっ!!」
「よし。じゃあ手を出してくれ。そこから魔力を流し込む」
「へっ!? 手ですか!?」
俺がルナに擬態した右手を差し出すと、ルナは顔を紅潮させて尻込みする。
流石に俺なんかと手をつなげと言うのは酷だっただろうか?
「あ、すまん。馴れ馴れしかったか……」
「い、いえ違います! そうじゃなくて、その……ちょっと驚いたと、言いますか……緊張、してしまって……」
「お、おお。そうか……」
一瞬あたふたとしてから深呼吸を挟んだルナは、ようやく俺の右手を握る。なんだかとても恥ずかしそうにしているので早く済ませるとしよう。
「じゃあ、いくぞ」
俺の中の魔力を、先程と同じイメージで右腕から、やがてルナの右腕へ……直感で行ったことを、次は意識的に……
「擬態……付与!」
「ん、ぁっ……! ロイ様が、私の中に……っ!!」
途端、付与の発動と共に魔力は微量の熱と共に腕を媒介として流れ、そして俺の身体から移動した。
手先は一瞬発行し、やがて消える。それは擬態付与による魔力の移動の、成功を意味していた。
「どうだ? 擬態、使え……」
それは、瞬きをしたほんの一瞬の時間の出来事。俺の目の前にいたはずのルナは姿を消し、″もう一人の自分″が、そこに立っていたのだった。
「これが、擬態。ロイ様の魔力っ!」
ああ、さっき俺がルナに化けた時になんであそこまで嫌がっていたかよく分かった。目の前に自分がもう一人いるって、中々に居心地が悪いな。
と、そう思っている間にすぐにルナは元の姿を取り戻した。そして手にした力を実感するかのように、握り拳を作って身体震わせる。
「まだ慣れは必要そうですが、何とか使えそうです。いえ、必ず使えるようになります! ロイ様から頂いた、大切な力ですから!!」
「よし。じゃあ、今日は魔力の訓練に時間を当てるぞ。俺にも、もっと詳しく付与の使い方を教えてくれ」
きっと、この能力をルナが使いこなせるようになればかなりの戦力アップに繋がるはずだ。レオパルドを殺しに行くのは、それからでも遅くはない。