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28話

28話



 俺が擬態できて、かつ遠距離攻撃のできる者。それはお前だよ、ルナ。


「避けているばかりでは、いつか当たってしまいますよ!! 擬態は使わないのですか!!」


 右手を湖に付けたまま圧縮した水の弾丸の射出を繰り返すルナは、俺の本気を更に促すようにそう叫ぶ。


 確かにこのままでは無限にこちらへ飛ばされ続ける弾にいつか必ず被弾する。


「じゃあ、遠慮なく使わせてもらうぞ……」


 水が後ろの木々に傷をつけていく音が響く中で俺はそう呟くと、全身をルナの姿に擬態した。


「ひあぁっ!? やめてくださいよ!! 反則ですそんなのぉ!!!」


 途端真っ赤に染まったルナの顔を視野に入れながら、俺は地面に触れる。


(全てを圧縮して、同じように……)


 それは、土。砂石や小石、砂鉄。全てを孕んだ、小さな硬質物の集まりだ。


 同じ濃度で圧縮をすれば、元の物体の強度で勝負がつく。つまり────


「付与!!」


 俺は空中に、地面を圧縮して強度を上げた盾を展開した。それらはルナの飛ばす水を真正面から受け、やがて弾く。


「っ……! 土のバリアですか!! でもそれは、私だって!!」


 そう。本番はここからだ。


 俺の擬態は、いわば劣化コピー。俺にできてオリジナルに出来ない事など、存在しない。


 だがそれは、能力一つを取った場合の話だ。


「全身擬態、解除……部分擬態!」


 俺は一度全身を元の姿に戻し、そしてすぐさま右手の手首より下の部分に絞った部分擬態を発動。加えて握られた剣の表面に、魔力を集中させた。


「擬態、付与ッ!!」


 それは俺にのみ許された、″二つの魔力を組み合わせることで新たな魔力を生む″力。


 俺の身体にしか纏えなかったクリスタルスライムの表皮を、握られた木刀へ。擬態を己の身体以外の無機物へと纏わせる、擬態付与の発動。


 これにより木刀は、水色の光沢と最高位の高度を纏った、この場における最強の剣へと変貌を遂げた。


「な、何ですかそれ!? ズルいですよロイ様!!」


「擬態を使えと言ったのはお前だろう。本気で来い、とも言ってたな」


「ぐぬ……ぐぬぬぬぬっ……」


 水の射出を止め俺の真似をして土からより硬度の高い弾を作り出すルナだが、それら全ては鉱石に敵うことはない。俺が剣を当てて斬ると、激しい金属音を立てて爆散した。


「さあ、決着といこうか」


「ッ……!!」


 俺が一気に距離を縮めると、ルナは動揺を露わにしながら弾の精度を乱していく。


 それは時間にしてほんの数秒の出来事だが、それだけ時間があれば決着には、十分だった。


「はッ────」


 俺はルナの懐に忍び込むと、重量に任せた重い一撃を木刀に喰らわせ、真っ二つにへし折った。


 そしてその鋭利な切先をルナの首元へ向けると、完全に戦意喪失した彼女はゆっくりと、膝から崩れ落ちたのだった。


「参り、ました……」


 降参して勝負の決着がついた瞬間からルナのさっきまでのような自信満々な表情は消え、まるで捨てられた後の子犬のようにしょぼんとした顔で顔を伏せる。


「ルナ、お前は強かったよ。とてもじゃないが、昨日まで奴隷をしていたとは思えないほどにな」


 実際、俺がルナに一度も触れたことのない状態での俺であれば、この勝利は得られたかどうか分からない。


 それほどまでにコイツの魔力は凡庸性が高く、同時に強かった。


「うぅ……ロイ様の隣で、戦いたかったです……」


 正直、ルナを戦いに巻き込むのは、自分勝手過ぎると思っていた。それに、そんな戦闘能力が彼女にあるとも、思っていなかった。


 だがルナが共に戦ってくれるなら、かなりの戦力になる。近距離の剣捌きが申し分ないうえに、遠距離攻撃まで出来るのだ。彼女がいれば勇者を殺す効率も、上げることが出来るかもしれない。


「なあルナ。お前さえ良ければ、なんだが……ぜひとも俺の方から、協力をお願いしたい。俺の復讐だけの人生に、ついてきてくれるか……?」


「えっ……えぇっ!?」


 俺がそう言うと、待ってましたと言わんばかりにぴょこぴょこと耳を動かし、尻尾をぶんぶんと振りながらルナが満面の笑みで顔を上げる。


「いい、のですか……? 私、負けたのに……」


「勿論だ。お前が共に戦ってくれると言うのなら、正直とても心強い」


「ロイ、様ぁ……っ!!」


 ルナは歓喜の表情で立ち上がると、俺が差し出した右手を両手で力強く包み込み、言った。


「どこまでもついて行きますよ、ロイ様。ふつつか者ですが、これからもよろしくお願いしますっ!!」


「ああ。改めて、よろしく頼む」



 こうして早朝の決闘は終了し、俺は最強のパートナーを手に入れたのだった。

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