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25話

25話



「すぅ……すぅっ……」


「全く。気持ちよさそうな寝顔しやがって……」


 俺たちはあの後村の端の方にあった空き家を購入し、全ての手続きを終えて夜になると、ルナはすっかり疲れ切って眠ってしまった。


 購入したのは、一階建ての一軒家だ。住む者が二人しかいないため、そんなに大きい家ではない。そこら辺にある、普通の平家。それでも、俺たちが住んでいくには十分な広さだと言えるだろう。


 そして次の日の朝、俺とルナは商店街に買い物に出た。とりあえず昨日のうちに急ぎで家とルナの服は買ったが、食料や日用品などはまだ何も買えていない。


 ルナが亜人である事がバレるとあまりいい目では見られないので、頭には頭巾を被せ、下にはロングスカートを履かせた。これで、とりあえずは耳としっぽが見える事はあるまい。


「ロイ様と、お買い物……!」


 ルナは商店街の中でもソワソワしていたが、だんだん慣れて来たのか、しばらく時間が経った頃には笑顔で買い物を満喫していた。


 きっと、この人並みの自由が、彼女には無かったのだろう。これからも無いと、覚悟して生きて来たのだろう。そんな彼女の心を癒せるのなら、これくらい安いものだ。


 家に着いた俺たちは、そのまま夕飯を取ることにした。ルナは料理が出来るらしく、彼女の作った料理はとても美味かった。本人曰く、故郷の母親に小さい頃教えてもらったものらしい。


 帰ってからもルナは、ずっと顔に笑みを浮かべていた。昨日までの奴隷だった頃とは、まるで正反対だ。


「ところで、ずっと気になっていたのですが」


「ん?」


「ロイ様は、どうして魔族なのにこの村にお住みになってらっしゃるのですか? その、正体を隠してまで……」


 あ、そうか。そういえば、まだ話していなかったな。何故俺がこの村にいるのか。……俺の過去に、何があったのか。まあ別に、隠す必要もないしな。


「俺は、勇者共を根絶やしにするためにここにいる。俺の故郷もお前の故郷と同じように焼かれ、家族や友達は皆殺された」


 俺がその話を始めると、ルナの顔から笑みは消えた。悪いことをしてしまったというような顔で、不安そうにこちらを見つめる。


「す、すみません。辛いことを話させてしまって」


「いや、別に気にするな。どうせいつかは話さなければいけない事だ」


 コップに入れた水を飲みながら、話を続ける。


「これからも、俺は奴らを殺し続ける。そしてそれは、魔族を奴隷にする連中も例外じゃない。お前を奴隷にしていたあの男も、必ず殺しに行く」


 そう言うと、ルナは目に涙を浮かべた。目尻にそれを貯めて半泣きになりながら、俺に質問をしてくる。


「それは、ロイ様の故郷の方々を殺されたことに対する、復讐……ですか?」


 復讐、か。


「そうだな。俺は、あの日皆を見捨てて一人醜く生き残った。そんな俺に出来るのは、せめて皆の仇である勇者共や魔術師、そいつらに便乗して魔族に下衆な仕打ちをする人間共。その全てを殺し尽くすこと。それだけしか、無いからな」


 自分で言っていて、改めてうんざりする。結局は、何か自分に存在価値があったと言えるようなものを探して、罪から逃げ続けているだけなのに。


「それだけ……それだけなんて、そんな悲しいこと言わないでください!!」


 ルナが、涙を零しながら大声でそう叫んだ。


「ロイ様は、私を救ってくれた!! 私に住む場所を、着る服を、自由をくれた!! ロイ様は醜くなんてありません!! ロイ様がその日生き残ってくれたから、私は今ここにいるんです!! 今ここで、普通の暮らしが出来ているんです!!!」


 机の上に身を乗り出し、今までの優しい感じの雰囲気を全て無くして、迫真の顔でそう主張するルナ。その様子には思わず、驚いて身体が震えた。


「そんな苦しみを、どうか一人で背負わないで下さい……。どうかその苦しみを、私にも背負わせて下さいませんか? ロイ様が一人で全て背負い込む必要なんて、ありません……」


 っ……。やめてくれ。俺には、そんな事を言ってもらえる資格なんてない。ただ全てから逃げて、逃げ続けた俺には……


「私には、ロイ様が必要なんです」


 気づけば、俺の目からは大粒の涙が何粒もこぼれ落ちていた。どれだけ拭っても、止まってくれない。


 涙を流したのなんて、何年ぶりか。その分蓄積されていた涙たちは、俺の意思とは関係なくいつまでも溢れ続ける。


「これからは、一人で戦わないで下さい。私が、隣で必ず支えて見せます」


 あの日から、ずっと一人で生きてきた。誰かに必要としてもらえるなんて、思ってもいなかった。思ってはいけないと、自分に言い聞かせ続けてきた。これは、俺一人の罪だと。絶対に、他人を巻き込んではいけないと。


「次は、私がロイ様を救う番です」



 そう言って横から俺の手を掴んだその細い手のひらはとても心強く、暖かった。

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