22話
22話
「ふッ────」
俺が振り下ろした木刀は、何度その身体へ向かおうとも触れる寸前で弾かれる。
そのようないたちごっこが、この準決勝第一試合ではかれこれ三十分は続いていた。
(チッ、面倒な……)
ツバキとは抽選で別れ、俺が相手をすることになったのは前回大会二位の男、ノル。
コイツのスタンスは、居合の構えから行われる完全防御陣営。決して自分から責めることはなく防御とカウンターのみに全神経を注いだ、常に後出しを繰り返す戦闘方法だ。
こういうタイプは不意打ちにはめっきし弱いが、その分相手を認識してからの正面からの戦闘なら爆発的な真価を発揮する。
「シーッ……ふぅっ」
相手の動きを見切る洞察力と、優れた反射速度。それに加えた居合からの抜刀術。カウンターの瞬間のみの太刀筋であれば、容易にルカを超えることも叶うだろう。
何も考えずに攻め続ければ神速のカウンターを喰らい、かと言って攻めなければ勝つことはできない。それ故に、攻めあぐねていた。
(まるで、機械みたいな奴だな……)
自分の領域に侵入してきた者に対して、まるで自動で動く機械かのように刃を振るう。何も考える必要なく全ての攻撃を弾くだけなのだから、体力の消費も最小限。武器が一つしかないこの状況下でこのまま攻めを繰り返すには、些か部が悪い。
なら────
「反応できなくなる手数で、攻め潰してやるよ」
「っ!?」
バキィッッッ!!
会場内に音を響かせ、俺は自らの木刀をその場で真っ二つにへし折った。
「なんの、つもりだ……?」
「言葉の通りだ。一本では勝てないと判断したから、これからは二本で行かせてもらう」
半分になった木刀を両手で一本ずつ握り、俺は二倍の手数で攻めを再開した。
本来であれば刃を二つにへし折って二本にしたところで、状況は良くなるどころかむしろ悪化する。何故なら短くなりすぎた刀身では相手に傷を合わせるのは愚か、そもそも当てる難易度が上がってしまうからだ。
だがコイツは、己の定めた空間の中に入ってきた異物全てに反応する。たとえそれがどれだけ短い刀身で、自分に致命傷を与える物ではないと分かっていたとしても、だ。
「ッ、ッッ!!」
それに加えて抜刀による神速は、その一閃の瞬間にしか起こりえない。即ちその一撃で相手の攻撃を排除できなければ、剣の速度は数段階落ちる。
居合の姿勢を取り直す暇すら与えず、複数の刃で攻撃を繰り返されれば、すぐにボロが出るというものだろう。
「こん、な……卑怯なッ!!」
「ルールは破ってない、ぞッ!」
「ごふっ!?」
二つの刃で手一杯になってガラ空きとなった銅に、深々と俺の蹴りが突き刺さる。続いて顔面に拳、肩には一閃。完全に俺の動きを把握できなくなった機械は、全身の至る所を痛めつけられたのちに崩れ落ちた。
(頭の堅い奴ほど、やはり崩れ始めると脆いな)
さあ、これでいよいよ決勝だ。最後にして、最大の壁が待ち構えている。
(さてと……最終調整をしてこないとな)
へし折った木刀を審判に手渡した俺は、そのまま選手控室へと戻ることにした。
ツバキと全力で戦うための、万全の準備をするために。




