21話
21話
『さぁ、続いて第二戦目! 新生にして無名、ダークホースのクレア選手と前回大会優勝者、ルカ選手の対決です!! では、始めッッ!!!』
実況者の大きな声と共に始まった試合は、お互いにお互いの様子を伺うところから始まった。
俺がルカの動きを警戒するのは当然だが、どうやらルカも俺に対して同じような感情を持っているらしい。
「クレア君。君の試合、見させてもらってたよ。ツバキ君に匹敵するほどの、実力者として」
剣を縦に構えながら、距離を詰めることもせず、ルカは真剣な眼差しでこちらを見つめてそう語る。
「それはどうも。まあ、過大評価もいいところだけどな」
俺がそう答えると、一瞬ルカはその顔に笑みを浮かべ、剣の構えを変えた。
縦に真っ直ぐ構えられていた木刀は横を向き、右脚を半歩後ろに下げた状態で、切先はこちらの頭を捉えるべく、攻撃的に向けられた。
「君の実力を見越して、悪いけど最初から本気で行く。だから君も、そろそろ加減をして戦うのをやめないか? ……僕なら、君の相手として不覚はないはずだ」
流石は前回大会優勝者。自信とプライドだけは随分と立派な様だな。
この姿でいること自体が俺からすれば随分なハンデなわけだが、恐らくコイツが言ってるのはそういうことではなく、単に俺のやる気が無さそうだから、ということだろう。
確かにこれまでの相手は弱すぎて話にならなかったが、コイツ相手に出し惜しみはしていられない。
人間としての本気で、相手をするとしよう。
「いくぞッッ!!」
その刹那、爆発的な加速力で剣先が俺の身体へと向かう。すんでのところでそれを躱しても、第二陣、第三陣が俺を襲い、反撃の隙を与えてくれない。
「すばしっこい、奴だ!! だが、そうしているだけでは僕には勝てないぞ!!!」
ヒュン、ヒュン、と空を切る音だけが会場内に響き渡り、俺の身体の寸分横を幾度も死が通り過ぎる。
(やはり、速いな……)
目で追えば見えない速度ではないが、それでもやはりコイツの速度は他の奴と比べて特段速い。
避けることは出来るのだが、反撃に至るにはあと少し、反応速度が足りない。
「ッッ、このまま押し出してやる!!」
やがて回避を繰り返す俺はジワジワとフィールドの外へと追いやられていく。もし端の線より外に足が出てしまえば、その瞬間に終わりだ。
「ッ────」
俺はそこでようやく、木刀を振った。
避けるのではなく、木刀で受け、そして流す。
攻めには転じずとも、その動作の繰り返しで俺の立ち位置はフィールドの末端から少しずつ中央へと戻りつつあった。
勝つこともないが、負けることもない。そんな拮抗した撃ち合いの中で、勝つためだけに頭を回す。
「僕と互角の人なんて、久しぶりだよ!! でもまだ、まだッッ!!」
本当に、コイツは強い。ツバキを除いて勇者の中で一位の実力を持つ男の本気は、この姿では────
(使うか……? アレを)
ツバキとの決戦のために残しておいた″奥の手″を発動しようとした、その時。俺の頭の中に、一つの仮説が浮かんだ。
(コイツ、まさか……)
打ち合いの中で、その仮説は一瞬のうちに確信へと変わる。
「……悪いな。俺の勝ちだ」
「なっ!?」
溢れ出そうになる笑みを抑えてそう言い出したその瞬間から、俺は攻めに転じた。
先程まで俺から攻める余裕を奪っていた圧倒的速度の剣は、俺の身体へと標準を合わせる間もなく何もない場所を空振りするだけ。
気付けば攻守はあっという間に逆転し、次はルカが俺の剣によってフィールドの端へと追い詰められていた。
「なん、なんだ!? まるで僕の攻撃を全て予測している、みたいな────」
「みたいなじゃない。してるんだよ。まあ予測というよりは、″お前から教えてもらっている″だけだがな」
俺の立てた仮説は、ルカの癖についてだった。
結論から言うと、ルカは剣を振る寸前″ほんの一瞬だけ振る方向に視線を向ける″癖があったのだ。
恐らくこれまでの相手にはそれを伝えられる者がいなかったのだろう。気付く間も無く、コイツに斬られていたはずだ。
だからこそ、その癖は圧倒的な、本人ですら知らない弱点となり得た。俺が攻めに転じるために足りなかったほんの少しの反応速度の上昇が、今満たされた。
どれだけ剣が速かろうと、その軌道が分かっているのであれば当たるはずもない。この癖を見破った時点で、俺の勝利は決定している。
「ッ、あッ────!?」
「終わりだ、ルカ」
それからは呆気ないもので、どれだけ反撃を繰り返しても当たらない剣の戸惑いで動きが鈍り始めたルカは、もはや他の者と変わらない実力へと堕ちた。
「ぐぼ、ォッ……」
その結果俺が猛攻を始めて僅か三十秒程でルカの鳩尾に深い一閃が決まり、意識を飛ばした事によって勝負は決着した。
「これであと、ニ戦か……」
次の抽選で、俺は二分の一の確率でツバキと当たる。いや、どうせ次の試合でもツバキが負けるはずなどないのだから、当たることは必然か。
(いずれにせよ、負ける気はない。最終手段を使ってでも、俺が勝つ)
改めて決意を固めながら、俺は大熱狂に包まれて抽選へと向かうのだった。