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1話

1話



 この世界には主に三つの種族が存在する。


 人間、魔族……そして、勇者だ。


 ここで「勇者も人間なのではないか」と言う質問が問われるかもしれないが、まったくもって否。俺はあの人間が産んだ悪魔どもを、ただの人間だとは認識できない。


 そもそも、ただの人間たちと俺たち魔族は、敵対などしてはいなかった。特別仲がいいというわけでもなかったが、お互いに不干渉。決して互いを妨げるようなことなどないよう、共存に近い形で暮らしていたのだ。


 しかし、人間の中でも上位の位……俗に言う「貴族」と、そいつらが生み出した「術士」と呼ばれるものたちがその均衡を、いとも簡単に壊した。


 そいつらはこの世界とは違う世界、異世界から「勇者」と呼ばれる者たちを召喚し続け、手に入れた力によって魔族への攻撃を開始したのだ。


 魔族の中には、戦闘能力が高い者もいれば、逆に人間と変わらない、むしろ並みの人間より弱いとも言える者たちも存在する。


 術士と貴族たちはまずそいつらに狙いを絞り、勇者を洗脳することによって大虐殺を開始。思惑通り今では魔族の数はおよそ全盛期の頃と比べて一割ほどにまで減少し、その一割の中でも奴隷にされて貴族の玩具にされている者が数多くいるのが現状。


 なぜ俺たちが、こんな目に遭わされなければならない……? ただ人間と姿形が違うだけで、何故虐げられなければいけないのだ。


 死ぬべきだったのは常に魔族ではなく勇者、ひいては術士と貴族のはずだ。


 だからこれから行うのは、復讐であり処刑だ。あらゆる手を尽くし、出来る限りの苦しみを与えてから殺す。


 それが俺の生き残った意味であり、唯一の使命だと、信じている。


◇◆◇◆


「さて、どうするか……」


 ベッドの上に寝転がりながら、ゆっくりと頭を回す。


 俺が今いるのは、人間たちの住む村の小さな宿の一室。俺はここで″人間の姿をして″暮らしている。


 人間の村には勇者専用の″魔族を殺すための″強力な武器に加えて、ここで暮らすことによって得られる情報もあるからだ。


 そしてそんな生活を可能にしているのは、俺に備わった魔力、「擬態」だ。


 まず、魔力とは魔族のみが使える能力のことで、発動するのに「魔素」というものを消費することになる。


 俺の擬態の主な能力は、触れたことのある生物への擬態化、そしてその相手が魔力を宿している場合ならば、その力をも手に入れることができる。


 とは言ってもその母体である者と比べるとやはり練度の違いから精度や威力は多少落ちるので、そのまま抜き取ると言うよりは、劣化コピーといったイメージだ。


 その擬態を解いて魔族の姿に戻ってから、俺は右手で握り拳を作って呟く。


「……よし。明日は、森に出るか」


 人間の村の近郊に位置する、深い森。そこでは魔族たちもひっそりと暮らしているわけだが、当然その分勇者も出現する。


 己の行いを正義と信じてやまない、自尊心の塊の悪魔ども。彼らは夜だと魔族より視界が悪くなるため、日中にしか活動しない。


 ならば朝一から森に張り込んで獲物を待つのが、一番効率がいいというものだろう。


 今の俺の力では、まだ術士たちには挑めない。ならばそれまでは勇者を相手にしながら力を蓄え、少し手をもその数を減らしていくのが最善だ。


「でも……いつかは、必ず……」


 俺から全てを奪った奴らは、俺がこの手で必ず処刑する。



 ただその揺るがぬ信念だけを胸に、俺は浅い眠りへと落ちていくのだった。

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