18話
18話
二回戦は、一回戦で勝ち上がった計五十四人の参加者で二十七試合行われる。トーナメント形式ではなくもう一度全員で抽選をするようで、俺は二試合目で戦う事となった。
特に何の変哲もない第一試合を見終え、モーガンよりも遥かに弱く、もはや話にならない相手を難なく倒した俺は、再び他の者の試合を眺める。
そして第二十四試合目、前回大会優勝者のルカの試合が始まった。
「はあぁぁぁッッッ!!!」
どうやら相手は前回大会四位という成績を残していた参加者の中でもかなり上位の実力者だったようだが、ルカはあっという間にソイツを倒して勝ち上がった。
やはり注意すべきとして挙がるのはアイツくらいだろうか。モーガン同様、ルカ以外の参加者は例え上位入賞記録があるものであっても、とてもじゃないが自分が負ける相手だとは思えない。
そんな事を考えながら適当に試合を見続け、最後の二十七試合目が始まった。
まったく見覚えのない顔つきだったため、おそらくは一回戦で俺の次の試合を戦っていた者なのだろう。ほかの参加者に絡まれたせいで、その試合だけは見逃してしまっていた。
実況者の説明によると、その男の名はツバキ。見た目は一般人よりも細身で、それに加えて白身や肌からはっきり言ってあまり強そうには見えない。
見えない、のだが……
(何なんだ、この感じ……)
他の勇者とはまるで違う、″謎の違和感″が身体を襲い、全身に鳥肌が立つ。
そしてその違和感は、わずか数秒後にただの違和感から、″得体の知れないものに対する恐怖″へと、変貌した。
「ッ────!」
試合開始の合図と共に、ツバキは手元の木刀を構える事もなく一閃。相手は次の瞬間には場外へと叩き出され、白目を剥いて気を失っていたのだ。
あまりに速すぎてほとんどの者がその瞬間を見ることが出来ず、会場は一瞬にして静まり返る。が、すぐに現状を理解した観客たちはその沈黙を破り、すぐに熱気と歓声で闘技場全体を包んだ。
(アイツ、一体……)
あの速度は、もはや人間の域にない。ルカの剣速も中々のものだったが、あれはもはや比較すら出来ぬほどに悍ましく、ただひたすらに速い。
この大会の危険人物は、もはやもうルカなどでは無い。間違いなく、あの男一人だ。
あの化け物相手に、ハンデを背負った今の状態で勝つ。とてもじゃないが、そんなことができる未来は想像し得なかった。
もしかしたら俺はこの擬態を解いた後で本気で戦っても、アイツには……
(さて、どうしたもんか……)
この一戦で、ツバキという男の名は、俺の今まで見て来た勇者の中で一番の危険人物として深く、刻まれた。