16話
16話
「では、まずルール説明をさせて頂きます。今回参加者は百八名のため、この全員でのトーナメント戦となります。一対一で、武器はこちらから支給した木刀のみ。服装は自由ですので、鎧などの着用をしていただいても構いません。
相手を戦闘不能にする、もしくは降参させた時点で勝利となります」
使用人の丁寧な説明が終わると、俺たちは選手用の観客席へと移動させられた。
円形の客席に囲まれた中央には、真四角の縦横約2、30メートルのリング。試合は、そこで行われる。
トーナメントの組み合わせのため、参加者全員がくじを引いた。一回戦は五十四試合あるが、俺はそのうちの五十番目。かなり後の方となったが、まあせっかくの機会なので勇者達の実力をしっかりと見させてもらおう。強い者がいるのなら、それも確認しておきたい。
そして観客の大熱狂の中、一回戦が始まった。
普段戦闘を見慣れない観客達からすればかなり面白いものなのだろうが、その試合のほとんどは俺にとっては見ていても退屈なものばかりだった。
遅く浅い太刀筋の者同士が戦ってどちらかが勝つ。ただそれだけの試合が二十戦ほど続いた。
だが、22戦目に中々興味深い男がいた。いちいちリングに上がってくる者の名前と紹介を丁寧にする実況者によると、名前はルカというらしい。
何でもその男は第一回大会の優勝者らしく、リングに出てきただけで観客の空気が変わり、かなりの歓声が送られていた。
相手もまたそこそこ名前の通った有名な者だったらしいが、流石第一回優勝者の実力はかなりのもので、わずか数秒でのされてしまった。
ルカの剣速は、恐らく今まで見た勇者の中で一番速い。この前城で戦った女とは比にならないほどのその速度は、俺の目をもってしてもギリギリ追える程度、といったもの。
本来なら魔族の動体視力は人間の二、三倍はあるため、ある程度、いや、かなりの実力者が相手であったとしても、太刀筋を見切れるほどの動体視力はあるはずなのだ。それでも尚ほぼ見えないとなると、かなり厄介だ。初戦でいきなり当たっていたらと思うと、中々に肝が冷える。
普段のように不意打ちなどを主とした自分の得意分野で戦えるのなら絶対に勝てる自信はあるが、今回は武器が木刀のみなうえに真正面からの戦闘。
(苦戦、するかもな……)
と、色々と考えている間に再び数試合は経過し、少し気になる者もいたが結局集中して見ることは出来なかった。
そして五十戦目。いよいよ、俺の番が来た。
相手は見ただけでも分かる、完全なパワータイプ。太い筋肉で膨張した四肢は、日頃の努力をよく伺わせる。
だが……
(俺の、得意分野だな)
木刀など使い慣れてはいないので殺してしまわないか不安だが、なんとか加減するよう善処するとしよう。