11話
11話
「ここです。オーガさんたちは、この下に……」
警戒を続けながら女の後をついて行くと、やがて案内されたのは城の一階。一番端の方に隠されるように位置していた、地下へ続く床下階段への入り口の前だった。
「あ、あの……本当に、オーガさんを助けてくれるんですよね?」
オドオドと本当にオーガを心配しているかのように落ち着かない様子でそう聞く女に、俺は先ほどと同じく助かる意思を表明する返答をした。
すると女は慣れた手つきでその扉を鍵で開け、邪魔な金属の板を引きずってどかす。
だが何故か、俺より先にその階段を降りようとはしなかった。
「どうした? 俺はここに入ったことなど無いのだから、先にお前に入って案内をしてもらいたいんだが」
俺がそう言って催促すると、女は小さく深呼吸をしてそれに応じ、ゆっくりと階段を下る。
その様子を後ろから観察しながら、俺も同じく階段を下りて、後に続いた。
すると……
「こ、れは……っ」
そこにあったのは、一面に広がる檻の数々。その一つ一つの中にはオーガが鎖で繋がれていて、グッタリと倒れるように眠っている最中だった。
「オーガさんたちはここで生きるための最小限の水と食事だけを与えられて、奴隷として扱われながら生きています。私は使用人として、彼らの世話係をさせられていました……」
カツン、カツン、と金属の床の上で足音を鳴らしながら、女は続ける。
「ずっと、オーガさんたちを助けてあげたかった。でも私には、そんな勇気も、力もなくて……。だから、だからっ……あ、れ? なん、で……私、泣いて……」
無意識のうちに溢れ出した女の涙はやがて頰をつたい、床へと零れ落ちていく。
ここに入る前の謎の躊躇といい、突然の涙といい。やはりコイツは、何かがおかしい。……まるで、オーガが助かることを素直に喜べない何かがあるかのような、そんな……
(城主への裏切りの罪悪感か? いや、違う。この感じは、この、震えは……)
コイツは明らかに、何かに″怯えて″いる。その何かがなんなのかなど、考えるまでも無いだろう。
「オーガが逃げ出したら、あの貴族は必ず激怒する。きっとその怒りを受けるのはお前だ。次はお前が、ここで代わりをさせられる可能性がある、ということか……」
ここまでくれば疑う余地はもう無い。きっと、この女のオーガを助けたいという気持ちは本物だ。きっと心の中では、そのせいで自分が犠牲になっても構わないとさえ思っているだろう。
だが、身体はそれを拒絶している。あんな薄汚い部屋に住まわされている時点で既に良い扱いは受けていないだろうが、きっとオーガが逃げ出せばこれまで以上の仕打ちに晒される。
その恐怖に怯える心が、涙と身体の震えとして溢れ出たのだ。
「私も、城主様と同罪です。ずっと、ずっと……オーガさんたちが酷い目に遭わされてるのを近くで見てたのに……。言い訳ばかりして、見て見ぬふりを続けて……」
俺は、勇者を皆殺しにする。ただの人間でも、魔族に害を成す者なら容赦はしない。
「もういい。お前の言いたいことは、よく分かった」
加害者の意見や言い訳など関係ない。俺は、ただ俺の成すべきことを続けるだけだ。
プロローグ700文字ほど加筆しました。




