10話
10話
バルコニーから城内に侵入した俺は、まず手当たり次第に数多くある扉を開けていった。
そのほとんどは何もない部屋や、物置にされている部屋と様々。
しかし五つ目の扉を開けた先には、女が一人、静かな寝息をたてながら薄汚いベッドの上で眠っていた。
歳はおそらく十代前半。赤く長い髪を靡かせた、幼なげな女だ。
「なんだ? 成金の城に住んでる女の部屋にしては随分と汚いな……」
埃の多い部屋の中にあるのは、女が寝ているベッドの他に掃除用具や使い古された古布、日中に着ていたらしきこれまたとても綺麗とは言い難いメイド服。
「なるほど、使用人か……」
一人そう呟いた俺は、女の肩を揺らした。
「ん、ぅ……うぅっ!? ま、魔ぞ……ふぐぅっっ!!」
「おい、叫ぶな叫ぶな。聞きたいことがあるだけだ」
俺が咄嗟に口を塞ぐと、女はこの世の終わりかのようにそれでも泣き叫ぶ。擬態でも使って人間の姿で入ってくるべきだったな……。
「情報さえくれれば殺さない。だから、一旦叫ぶのをやめてくれ」
「んっ……んんっ……」
観念してなのか、それとも俺の言葉を信用してなのか。女は涙を溢れさせながらも、無言で頷いた。
「か、ひゅっ……けほっ」
小さくむせる女から少し距離をとり、落ち着くのを待ってから問答を始めた。
「単刀直入に聞くぞ。ここの貴族が奴隷のように扱ってるオーガたちの居場所はどこだ?」
ビクッ。女の身体が、大きく震える。
「あ、あの……オーガさんたちの居場所を知って、どうするつもりなんですか……」
まるで、オーガたちの事を心配しているかのような声色で。女は小さな声で、そう答えた。
質問に質問で返すなと言いたいところだが、どうにも引っかかる。コイツは、もしかして……
「助ける、と言ったらどうする?」
「っ……!」
女は俺の言葉に、驚くように……それでいて、どこか嬉しそうに。言葉にならないような感情を昂らせながら、目を見開かせて俺の目を見た。
「本当に、オーガさんたちを……助けてあげてくれるのですか……?」
違和感の正体はこれだ。この女は人間で、それも貴族の使用人でありながら、オーガたちの事を心配していた。当然何か出来ることがある訳でもなかっただろうが、その気持ちだけは本物のように見える。
「ああ、俺はそのためにここに来た。オーガたちの居場所、教えてくれるか?」
「は、はいっ! 私が、ご案内します……!」
そそくさとベッドから立ち上がり、早く早くと言わんばかりに俺を誘導する女。
あまりに事がうまく進みすぎていて罠の可能性も疑ったが、それならそれでいい。
罠だということは、人のいる場所に案内してもらえるということだ。その時はその場にいる全員を負かして、改めてオーガの居場所を聞き出せばいいだけの話だしな。
「こっちです、魔族さんっ!」
笑顔で手招きする女に違和感を通り越した奇妙な感じを覚えながらも、俺はその導きに応じた。