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9話

9話



「ぐあ〝ぅ……う〝ぅぅ……」


 未だにドバドバと血が溢れ続ける右腕のせいか、女の呻き声は徐々に小さくなっていった。


 柱に身体を縛り付けられてなお、抵抗の色はもう見えない。


 骨を絶たれる痛みは想像を絶するものらしく、それだけでショック死してしまう者も少なくないという。よく考えれば、これでもこの女は、ちゃんと丈夫なほうなのかもしれないな。


「おい、さっきまでの威勢はどうしたんだよ」


「ひっぅ……あ〝……」


 恐らく、重度の貧血だろう。俺がこれ以上直接手を下さなくても、このまま放っておけばコイツは勝手に野垂れ死ぬ。


 持って後数分。せめてその間は、地獄を味わってもらうとしよう。


「おい、起きろよ」


「あ〝……あ〝あ〝ぁッッッ!? むぐっぅ!!」


「いや、起きろとは言ったけど叫べとは言ってないだろ。急に叫ばれたらびっくりするだろうが」


 女の腹部に突き刺さった小型ナイフが、更に理性を壊していく。先程までは必死に耐えていた涙腺も、今では崩壊してグチャグチャだ。


「安心しろよ。急所は外してあるし、引き抜きさえしなければまだ生きてられるぞ。……ってことで、二本目」


「ん〝ん〝ん〝ぅぁッッッッ!!!」


 口に布を押し込まれていてもなお漏れ出す叫び声。


 俺の話し声と同じくらいの声量でも、そこには確かにコイツの全てが込められていた。


 生きたい、助けて欲しい、か……それとも、死を懇願しているのか。それは俺には分からないが、今はできることをするだけだ。


「本当は何時間もかけてじっくりと殺してやりたいんだけどな。生憎今は忙しい」


「ひっ……う〝ぅ……がァァァ!!?」


 俺はダガーを振り下ろし、女の左腕をも根本から切断した。


 両腕を無くし、腹には突き刺さった二本のナイフ。もう、いよいよ限界だろう。


「よし、これをこうして……」


 女の身体の自由を奪っていた縄を解いた俺は、それを短く切って次は両脚へと結んで地面に寝かせる。抵抗されるのが面倒で縛っていたが、もう必要などないだろう。


 ドク、ドクと血管は体外に血を放出し続けるが、もう女にはそれを止める手段などとうに無い。一切身動きが取れぬまま、ここで死ぬのみだ。


「少しは期待してたんだけどな。……やっぱり、ただの雑魚勇者だったか」


 女が俺に浴びせた言葉を繰り返すように、その腹に刺さったナイフを足で踏みつけながら俺は呟く。


 純白のドレスは真っ赤に染め上がり、ナイフに深く抉られた腹部からは肉がよくかき混ぜられる音が鳴り響いた。


「まあ、″暇つぶし程度にはなった″ぞ。じゃあな」


「う〝ぅぁ……あ〝ぁぁ……ッ!」



 最後にそう言い放ち、俺はバルコニーを後にした。

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