8.爆発落ちなんて最低
「お、おい!」
「ん? どうしたんだよ」
「あ、あれ見ろあれ!」
「あれ?」
「上だよ!」
「上……は?」
街の一角に影が出来る。
太陽に雲がかかったのかと空を見上げれば、そこに船が浮かんでいる。
雲だったなら、すぐに見上げた顔を下ろしただろう。
一度見てしまえば、しばらく見上げた顔は固まって、口もポカーンと開きっぱなしだ。
何せ空飛ぶ舟なんて、今の時代には想像の産物でしかないからな。
「ヤッホー! 最っ高の眺めだな!」
「おいアリア、そんなギリギリに立って落ちたらどうするんだ?」
「大丈夫だって――うおっ」
ビュンと強めの風が吹いて、アリアは体勢を崩す。
「っと! あっぶな……」
ふらつきながら自力で立ち直り、どうにか落ちずに済んだ。
言った傍から危なっかしくて、こっちが冷や汗をかく。
そんなことをしている内に、俺たちを乗せた箱舟は王都の上空を通り過ぎていた。
後ろを振り向けば、慣れ親しんだ城が見える。
俺の隣に立って、同じように城を見つめるアリアに、俺は尋ねる。
「後悔はない?」
「んなもんねーよ。って、いや……そういえば作りかけの新作忘れてきた……」
「それって魔剣の?」
「そう。まだ魔剣になる前の状態だから、ほとんど普通の剣だけどな。まぁいいや~ 他の魔剣はリルタに保管してもらってるしっ」
「そうだったの?」
俺はリルタに視線を送る。
話を聞いていたリルタが、頷いてから答える。
「そうだよ。ボクの特製超便利魔道具の一つ! 亜空間収納ポケット(改二)に収納済みさ!」
「あ、亜空……」
名前長いな。
リルタ曰く、いっぱい収納できるポケットらしい。
途中から原理の説明をされたけど、わからないし聞くだけ無駄だった。
「リルタは良かったの? 研究室にデータとか残ってたんじゃないか?」
「残ってるけど、大事なものは自分で持ち歩いているから心配いらないさ。研究機材一式を失うのは惜しいけどね」
「そうか……」
勢いで飛び出す前に、彼女の研究室に寄るべきだったかな。
そこまで考えが回らなかった。
「そんな顔をしないでくれ。ボクは別に気にしていない。それより助手君が無事で何よりだよ」
「リルタ……」
「これからもボクの手足となってバンバン働いてくれ!」
「そ、それはもういいかな」
リルタの実験に関わると、大抵ロクな目に合わないからな……
最後に手伝った時も大爆発に巻き込まれたし。
実験場所を屋外にして正解だったと死ぬほど思ったね。
「ねぇねぇリルタちゃん!」
「何だい? エリー」
「データが研究室にも残ってるんだよね? あの首輪みたいに悪用されたりしないかな?」
「されそう」
と呟いたナナリ。
俺もナナリの意見と同じだ。
首輪だってリルタのデータを盗んで作ったみたいだし、あの腹黒陛下ならやると思う。
「ふふふっ、その心配は無用だよ!」
「どうして?」
「こんなこともあろうかと、私の研究施設には爆破装置が仕込まれているのさ!」
「ば、爆破!?」
嫌な記憶が途端に蘇る。
元を辿れば普段よくある実験の失敗も、リルタの趣味で自爆装置とか埋め込むからなんだよなぁ。
何だか物凄いドヤ顔しているし。
「えーっと、あった。このスイッチを押せば起爆するよ。そうなればデータもドカンッとなくなるわけだ。あーそれからアリアの鍛冶場にも仕掛けてあるから、一緒に爆破しておくよ? これでアリアの試作も悪用されずに済むね」
「おう、ありがと……え? 何であたしの鍛冶場に仕掛けてあるの? 聞いてないんだけど?」
「それはほら、今初めて教えたからね」
さらっと衝撃発言。
アリアの額から汗が垂れ流れる。
「ちょっ、ちょっと待て! いつからだ? いつから仕掛けてたんだよ!」
「じゃあ押すよー」
「おい聞けよ!」
ポチッ!
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
ユリウスたちが乗る箱舟を、下から見上げるガイバル国王。
悔しさに歯ぎしりをしながら、姿が見えなくなるまでその場で立ち尽くす。
「くっ……くそっ!」
その場にあった瓦礫を蹴飛ばし、倒れている兵に当たる。
兵たちは倒れたまま動かない。
まだ息はあるが、ゴーレムに倒され重傷だ。
「この役立たず共がっ! 何たる不甲斐なさだ」
そんな彼らを労わることなどせず、無下に踏みつける。
国王にとって臣下は道具であり、ただの駒でしかない。
高々一人や二人失っても替えが効く。
ただし、問題はあれど優秀な人材を四人も失い、世界初となる百階層で得た成果も失った。
怒りと喪失感に苛まわれながら、ふと思い出す。
「いいや……まだ全て消えたわけではない」
瞳に光を取り戻したように、国王はその場を後にする。
向かった先は、リルタの研究室だった。
彼女の研究データの中には、ダンジョンで得た新たな情報も含まれている。
国を発展させる鍵として、データさえあれば何とかなる。
そう考えた国王は、急いで研究室に駆け込んだ。
「私にはまだこれが残ってる! 後悔するいい……このデータを利用して、いずれお前たちをぶっ殺――」
ピカリと一瞬。
直後の大爆発が、城内に響き渡った。
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