7.謝っても遅いんだよ
きっと、初めからこうするつもりだったのだろう。
天才だが制御ができない四人を一か所に集め、ダンジョン探査という任を与えたのは、彼女たちを手駒にするための準備だった。
リルタの目を盗み、彼女のデータから奴隷の腕輪を完成させたことで、準備が完了したんだ。
本来ならここで、俺を普通に追い出して、後で彼女たちを操るつもりだったのかもしれない。
まさかの成果を持ち帰る、なんて想定外が起こったから、陛下も手を変えたんだ。
そう……初めから決まっていた。
俺の頑張りも、得られた物も全て、取り上げられる。
それが現実だというのなら、俺は同等と言ってやるよ。
「糞くらえだ」
「ふんっ、縛られた犬が吠えた所で何とも思わんな」
「それはどうかな?」
今までの俺なら、ここで終わっただろう。
だけど、陛下は忘れているのかな?
俺の右腕にある腕輪が、何を管理するための証かを――
「囲え――ノア!」
腕輪が青く輝く。
次の瞬間、俺たちを囲うように白い壁が生成された。
「な、何――」
完全に四方を囲い、天井も覆っている。
これはダンジョンの壁だ。
俺が手にした腕輪は、ダンジョンの力をそのまま操れる。
やろうと思えば、ここに巨大なダンジョンを丸っと召喚することも出来るが、今はこれが精いっぱい。
「来い! ノアの騎士」
ダンジョン内で戦った純白の鎧騎士を召喚した。
俺は鎧騎士に命令する。
「この縄を斬れ!」
鎧騎士は命令に従い、俺の縄を斬り裂いた。
続けて残る四人の縄も斬るように命令し、全員の拘束が解かれる。
「ありがとう! ユリウス君」
「喜ぶのは早い。問題が外には残ってるんだ」
ドゴーンという爆発音が響いて聞こえる。
おそらく外から魔術による攻撃を仕掛けているに違いない。
この壁は頑丈だが、時間をかければ破壊されてしまう。
壁を解く前に、うるさい兵たちを押さえなくては。
「ノアの岩兵」
俺は壁に触れ、ダンジョンゴーレムを生成。
壁の中にではなく、外に生成した。
戦っている音が聞こえる。
その音が止むのを待って、俺は壁を解除した。
すると――
「なっ、何なのだこれは!」
残っていたのは怯えた陛下のみ。
他はゴーレムに倒され、床に倒れ込んでいる。
「何故だ……なぜ魔術が使える?」
「お言葉ですが、これは魔術じゃありませんよ。この腕輪の力です」
「馬鹿を言うな! それは魔道具だろう?」
「はい。ですがこの腕輪は、私の魔力で動いているわけではありませんので」
「なっ……」
俺たちが攻略したダンジョンには、魔力を自動生成する機構が備わっていた。
現在の技術では到達不可能とされるロストテクノロジー。
まさに古代の遺産の力と言える。
「ちゃんと報告したはずですが……まぁどっちでも良いです」
俺は陛下に歩み寄る。
陛下を守る兵はもういない。
遮るものは何もない。
「ま、待ってくれ!」
陛下は慌てて弁解を始める。
「私が悪かった。素晴らしい成果を得た褒美として、貴族の位をやろう!」
「殺そうとしておいて?」
「か、金も好きなだけやる!」
「彼女たちを都合の良い奴隷にしようとしたな」
「た、足りぬと言うなら次期王の候補として私から推薦してしよう!」
握る拳に思いが集まる。
「お前が座ってた汚い玉座なんているかっ!」
「ごっ……」
今さら何を差し出されたって遅いんだよ。
超えてはいけない線を踏み越えた時点で、俺はあなたを人だとは思わない。
「殺されないだけ幸運だと思ってください。まぁ、聞こえてないでしょうけどね」
殴られた陛下は伸びて転がっている。
ぱんぱんと手を払い、大きく深呼吸をした。
スッキリした気分と同じくらい、やってしまった感も否めない。
これでもう、この国にはいられない。
どちらにせよ出て行くことは変わらなかったな。
「俺はこのまま出て行くけど、みんなはどうする? 今なら表面上、俺が暴れたってことにすれば、みんなだけは今まで通りに――」
「馬鹿かっ!」
アリアの腰の入ったパンチを腹にくらう。
「うっ……アリア?」
「一緒に行くに決まってんだろ? こんな国に残りたい奴なんていると思ってるのか?」
「そうだよ! ユリウス君が行くなら、私たちも一緒に行く!」
「研究はどこでも出来るしね」
「ユリウス、一人じゃないよ」
「お前ら……」
嬉しい言葉だ。
今までだったら、迷惑だとか思ったのかもしれない。
いや、そうでもないか。
こいつらと過ごした時間は、案外刺激的で嫌いじゃなかったしな。
「よし! じゃあ行こうか!」
「「「「おー!」」」」
俺は腕輪を天井にかざす。
「ノアの箱舟!」
純白の船が天井を砕き、俺たちの前に停泊する。
これもダンジョン内にあった物の一つ。
後から知って驚愕させられた空飛ぶ舟だ。
俺たちは船に乗りこむ。
すると、今の衝撃で伸びていた陛下も目を覚ましたらしい。
「ぅ……う……なっ、何だこれは!」
驚愕の声が聞こえて、俺たちは船から見下ろす。
「では陛下、さようなら」
船が浮かび上がり、天井をさらに砕いて空へ上げる。
城の一部にぽっかり穴が開き、そこから船が出てくるなんて、誰も予想できなかっただろう。
この日、王都中の国民が、空を見上げていた。
彼らの瞳には、煌々と光り輝く純白の船が映っていた。
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