表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

6/14

6.糞くらえだ

 拘束される一時間前。

 俺は彼女たちと一緒に、城内の一室で寛いでいた。

 テーブルの上にはカップが五つ。

 使用人が用意してくれた美味しい紅茶を飲み、のんびり寛ぎながら待つ。


 リルタが紅茶のカップを置き、口を開く。


「さて、かれこれ一時間は経つけど、陛下は何をしていらっしゃるのかな?」

「う~ん、わかった! きっと私たちのためにパーティーの準備をしてるんだよ!」

「ご飯!?」


 パーティーに反応して寝ていたナナリが目を覚ました。


「それはさすがに違うんじゃないかな?」

「そうかな~」

「……ご飯じゃないなら寝る」


 ナナリは再びスピーと寝息をたてる。

 一気に紅茶を飲み干して、アリアがコップを豪快にテーブルへ置く。


「まっ! 少なくとも悪い話じゃないだろ。何たって過去最大級の発見をしたんだからな! なぁ、ユリウス」

「ああ、だと思いたい」


 アリアの言う通り、俺たちが持ち帰った情報や技術は、この国をさらに進化させる十分な材料となるはずだ。

 百階層のダンジョンを攻略した例は未だかつて存在しない。

 歴史に残る快挙と言っても過言ではないだろう。


 パーティーはなくても、報酬くらいは用意されてそうだな。

 最低でもクビは免れるだろう。

 素直に認めるのは癪だけど、今回は彼女たちのお陰で助かった。

 陛下の話が終わったら、四人を誘って食事でも行こう。


 そんなことを考えながら、俺も紅茶を飲む。

 カップが空になった頃、陛下に使える近衛兵の一人が部屋を訪ねてきた。

 準備が出来たので来てほしいと告げ、去っていく。


「行こうか」


 俺たちは揃って部屋を出た。

 王座の間について、陛下の前で頭を垂れる。

 一連の流れを通して、陛下からの言葉を待つ。


「顔をあげよ」

「はっ!」


 陛下が怒っていない。 

 たったそれだけのことが新鮮に思える。


「第七ダンジョン探査団の諸君、此度はご苦労であった。君たちのお陰で、わが国は更なる発展を遂げるだろう」

「ありがとうございます!」


 陛下からの誉め言葉。

 聞いたのは何年振り……いや、初めてかもしれない。

 嬉しくて我慢していないと顔がニヤけそうになる。

 俺はニヤけそうな顔を隠すように、陛下に頭を下げた。

 そして――


「話は以上だ。ユリウス、その腕輪がダンジョンのキーだね? それを置いて、この城から立ち去り給え」

「えっ……」

「聞こえなかったか? 腕輪を置いて、この城から去れと言っている」


 陛下の一言で、俺は絶望に変わる。

 思わず見上げた陛下の顔は、今まで見た中で一番冷たく、怖く感じた。

 まるで、ごみを見るような目をしている。


「へ、陛下?」

「何を驚いている? まさか数日で忘れたのか? 君の役目は、今回のダンジョン探査をもって終わりだと、出発前に伝えたはずだが?」

「そ、そんな……」

「お待ちください陛下!」


 声をあげたのはリルタだった。


「何だね? リルタ・サラン」

「お言葉ですが陛下、私たちは成し遂げた成果は、間違いなく王国の利益となりましょう。それはリーダーであるユリウスの功績でもあるはずです。ここは罰ではなく、相応の評価を――」

「つまらんことを言うな。私の決定は絶対だ」

「……ですが、すでに私たちの功績は城の外まで届いております。成果を挙げた者を追放したと知れば、民衆から非難されるのではありませんか?」

「問題ない。その程度の噂など、後からどうとでもなる」


 つまり、もみ消すのは簡単。

 他の誰かの功績にすり替える、という意味だ。


「だとしても! この探査で手に入れた物はくれるって言ったんだろ?」


 乱暴な口調で抗議してくれたのはアリアだ。

 そう、確かに陛下は言った。

 だけど……


「何のことだ?」

「こいつ……」


 しらを切られるだろう。

 俺はすでに、何となく察していた。


「どうした? 渡すつもりはないのか? ならば仕方がないな」


 陛下の目が、より冷たくなる。


「この者たちを拘束しろ」


 その一言で、姿を隠していた兵たちが一斉に現れる。

 抵抗しようと動いたが、一歩遅かった。

 拘束魔術を発動され、紫色の縄で五人とも身体を縛られてしまう。


「従わないというなら、腕ごと斬るしかないな」

「っ……陛下!」

「そう騒がずとも楽に殺してやる。他の四人には利用価値があるが、君には何もないからな」


 最初から。

 きっと、最初からこうなることが決まっていたんだ。


「ふざけるなっ! あたしらが従うとでも思ってんのか!」

「思わないさ。特にアリア・レーベル、君のように感情的な女は意地でも従わないだろう。だから準備に時間がかかった」


 そう言って陛下の背後から二人の兵が顔を出す。

 兵が手に持っていたのは、黒い首輪だった。

 リルタがそれを見て気付く。


「それは!」

「気づいたか? さすがだね。これは装着した者に服従を強制する魔道具……奴隷の首輪だ」

「奴隷? リルタちゃんが作ったの?」

「違う、ボクじゃない。一度依頼されて案だけは考えたけど、作らず無視してたんだ。君たち……ボクの研究データを盗んだね?」

「盗んだとは人聞きの悪い。大事な我が国の宝だよ」


 ニヤリと笑う陛下の顔は、もはや別人のように見える。

 拘束は硬く、魔術でもなければ抜け出せそうにない。

 アリアが暴れながら、ナナリに叫ぶ。


「おいナナリ! こいつらまとめて吹き飛ばせ!」

「……無理」

「は?」

「魔力が……コントロールできない」

「何で……」

「そうか。おそらくさっきの飲み物に……」


 リルタがぼそりと口にする。

 それが聞こえたのか、陛下は鼻で笑う。


「さて、説明はもういらないだろう? どうせ使う駒と、捨てる駒だ」


 首輪を持った兵士がにじり寄る。

 俺のほうには剣を抜いた近衛兵が近づく。

 

 本当に殺されるのか。

 こんな所で、理不尽に終わるのか?


 そんなの――


「糞くらえだ」


 ダンジョンマスターの証。

 その腕輪が青く光る。

 

ブクマ、評価はモチベーション維持につながります。

【面白い】、【続きが読みたい】という方は、ぜひぜひ評価☆☆☆☆☆⇒★★★★★をしてくれると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ