4.ダンジョン第百階層
一から五十階層までのダンジョン内部は、歴史を感じる古びた石レンガで壁や床、天井が構築されていた。
しかし、新たに発見した下層へ続く階段を降りると、その風景は一変。
「これ……」
「真っ白だよ!」
エリーが言葉に出した通りの感想を、俺も口に出そうとしていた。
古びて埃っぽかった先ほどまでと別世界だ。
純白のタイルが足場を作り、壁と天井は白いレンガで出来ている。
廊下の幅や天井までの高さも違う。
王城の廊下は巨人でも通るのかというくらい大きく作られているのだが、それと同じくらいだ。
立ち止まって周りをキョロキョロ見渡す俺たちの横で、リルタがトラップ計測器を使い、五十一階層内を調査する。
「ここから先が本当のダンジョンなのかもしれないね。トラップの数も多いよ」
「濃い魔力を感じる……たぶん、モンスターの数も増えてる」
ナナリは魔力感知に集中するため閉じていた目を開ける。
それを聞いたアリアは、拳をパチンと合わせて言う。
「いいじゃん! ガンガン進んで最深部までいっちまおうぜ!」
「そうと決まればレッツゴーだね!」
エリーとアリアは特に元気が良いな。
かくいう俺も、少しワクワクしている。
この一年で初めて、成果らしい成果を得られるチャンスが来ている。
そんな気がしていた。
俺たちは意気揚々と進んでいく。
第五十七階層。
二メートルを超える巨大なゴーレムと接敵。
「普通のモンスターじゃない」
「このダンジョンを守護する兵隊と言ったところかな?」
「一気に吹き飛ばす。みんな下がって」
ナナリは杖を構え、前方に術式を展開。
突風と爆発を融合させ衝撃を押し出し、ゴーレムの隊列を一撃で破壊。
彼女の魔術があれば、数の差は不利にならない。
敵でなくて良かったと心から思える。
第六十九階層。
階層全体に毒ガスが満ちていた。
「このマスクを付けていればガスなんて怖くないよ」
「さっすがリルタだな」
「でもこのマスクどこから出したの?」
「それは内緒だよ」
リルタの発明した魔道具を使い難なく突破。
第七十五階層。
今度は階層全体が水に浸かっていた。
「ブクブクッブクッブク~」
水の中だから何を言っているか聞こえない。
ここでもリルタの発明したマスクが活躍。
水中でも数分間なら呼吸が出来る。
そして移動は、エリーが呼び出したメガシャークという巨大鮫のモンスターに乗りひと泳ぎ。
第八十七階層。
白い鎧を着た騎士と遭遇。
「魔術が効かない」
「どうやら物理攻撃しか通じないようだね」
「ならあたしらに任せろ! いくぞユリウス!」
「了解」
俺とアリアで応戦。
中身が空っぽの騎士だが、中々の強敵だった。
鎧が硬く、普通の剣では斬れない。
アリアから貸してもらっている魔剣のお陰で何とか殲滅に成功。
激戦と探索。
ダンジョンへ潜ってから、すでに半日が経過していた。
ペース的にはかなり早い方だ。
半日で百階層あるダンジョンの最深部まで行けるのは、おそらく彼女たちがいるこの探査団だけだろう。
そして現在。
第九十九階層。
巨大な部屋が一つだけあり、そこに巣食う純白の龍と交戦。
死闘を制した俺たちは、次なる階層へ続く扉前に立つ。
「はぁ……はぁ……さすがにきついな」
ぶっ続けで探索を続けている。
俺を含む四人とも、すでに限界を迎えつつあった。
普段から鍛えている俺でさえ体力的に厳しいのに、よくここまで頑張ってくれていると思う。
「さぁ、次でようやく最後だ」
「うん!」
「そうだね」
「おう」
「帰ったら……寝たい」
ここに至るまで、俺たちは様々な物を見ている。
まだ知られていない新技術や、地上にはいないモンスター、千年以上前の人々の暮らしが書かれた日記などなど。
すでに十分な成果を得ている。
あと一押しあれば、俺のクビも見直してくれるかもしれない。
そんなことを考えながら、俺たちは第百階層へ足を踏み入れた。
人工の光に照らされた緑の庭に、池の水が鏡のように光を反射する。
中央に建つ純白の建物は、まるで小さなお城のような屋敷だった。
「ここが……最深部?」
「何だよこれ。庭付きの屋敷?」
「誰かのおうちみたいだね」
「うん。もしかすると、このダンジョンの作成者が暮らしていたのかも……」
リルタの提案に頷き、俺たちは屋敷の中を探索した。
なんてことはない。
中は普通に住み心地が良さそうな家だ。
ベッドもあるし、お風呂や台所もある。
これが千年以上前に実在した人の暮らしなら、今とほとんど変わらないような気もする。
書斎は古代文字だったので後回し。
残すは屋敷の地下室のみ。
「祭壇?」
「みたいだね」
殺風景や一室の中央に、白く細長い台がある。
よく見ると、太陽の形に似た紋様が刻まれていた。
そこに何気なく、俺が触れると――
部屋全体が青く光り出す。
「な、何だ!?」
「管理者権限変更――マスターを登録しています。しばらくお待ちください」
慌てる俺の耳に女性の声が聞こえる。
今さら気づいたが、台に触れている手が熱い。
離そうとしても離れない。
「登録が完了しました」
女性の声が響いた後、青い光が消える。
そして――
「助手君、その手」
「え? あ……腕輪?」
俺の右手には、純白の腕輪がつけられていた。
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