2.クビですか?
反省室生活一日目。
なぜか俺だけ解放され、陛下に呼び出された。
今回はやけに早いな。
いつもなら最低でも三日、長いときは十日間くらい出してもらえないのに。
それに何で俺だけ呼び出されたんだ?
疑問を抱きつつ、俺は王座の間に向った。
そして――
「第七ダンジョン探査団の正式な解団が決定した」
「えっ……」
突然のことで、思わず声に漏れてしまった。
陛下に対して失礼極まりない。
「次のダンジョン探査を最後に探査団は解団だ。ユリウス・ペンデュラ、お前に課せられた任も、その時点で終了とする」
淡々と説明する陛下の言葉に耳を傾けながら、俺は心の中でホッとしていた。
普通こういう時って、落ち込んだりガッカリするものだろう。
ただ、俺の場合はむしろ有難いとさえ思える。
これで探査団から解放され、騎士団に戻ることが出来るのなら、解団も悪いことじゃない。
「今までよく働いてくれた。餞別として、次のダンジョン探索で得た物はお前にくれてやろう」
もらって良いんですか?
随分と気前が良い。
ん?
今もしかして、餞別って言わなかったか?
「解団後の報告が終わり次第速やかに城を出て行けるよう、今のうちに身支度をしておくように」
「へ、陛下……お言葉ですが、それは一体どういう……」
「わからないか? この城でのお前の仕事は、もうないと言っている」
ようやく問題児たちの御守りから解放されると喜んだ。
とんでもない。
俺に対するクビ宣言だった。
正直に言えば、いつかこういう日が来るのではと思っていたよ。
平民から騎士になった俺は、あまり良い印象を持たれていなかったからな。
なぜ俺だけなのかと釈然としない気分ではあるが、それもまっとうな理由だろう。
俺と違って、彼女たちの才能は国にとって有益だ。
問題ばかり起こしていても、捨てるには惜しい人材ではある。
とは言え、だ。
さすがにクビはひどくないですか?
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
陛下からのクビ宣言を受けた後、俺はひとしきり落ち込んで、彼女たちがいる反省室に戻された。
そこで四人に探査団の解団と、俺のクビを伝えた。
「ええぇ! 何でユリウス君追い出されちゃうの?」
「そうらしい」
「ボクたちは残されるんだね」
「いや、それはさすがに理不尽すぎるだろ」
「ユリウス……可哀想」
反応は違うけど、四人とも俺を心配してくれているのは伝わった。
一年も一緒にいれば、それなりに仲良くはなれる。
心配してもらえる程度には、彼女たちの信頼を得ていたということだ。
そこは素直に嬉しい。
嬉しいけど、今は落胆のほうが大きすぎて、もう涙が出そうだ。
「ユリウス君だけなんて駄目だよ! わたし今から王様にお願いしてくる!」
「エリー一人では勝算が薄いね。ボクも一緒に行こう」
「あたしも行くぜ。ちょうど試し切りしたい魔剣があるしな」
「……よし」
「よしじゃないから!」
いつもやる気のないナナリまで杖を取り出し、反省室の扉を破壊しそうな勢いだった。
慌てて俺は彼女たちの前に立ち、両腕を広げて制止する。
「落ち着いてくれ! 気持ちは嬉しいけど、そんなことしたらもっと問題になるから!」
追放どころか最悪死刑になる。
たぶん、そうなっても俺だけなのがもっと辛い。
「別に城で働けなくなるってだけで、この国から追い出されるわけじゃないから。仕事はまた見つけるよ。それに、最後のダンジョン探索で手に入れた物はくれるって陛下もおっしゃってたし、全部悪いことだらけじゃないからさ」
まぁどうせ何も見つけられないだろうと思われているに違いない。
一年も成果ゼロだったのに、最後だけ何か得られるなんて美味い話もないだろう。
俺もほとんど諦めている。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
世界中で発見されているダンジョン。
その総数は、現在で一二七。
内三割に当たる四十のダンジョンを保有するカーバル王国は、世界三大大国の一つに数えられている。
一言にダンジョンといっても、規模や形状は様々だ。
洞窟のようになっているダンジョンもあれば、建物の地下室のようなダンジョンもある。
最近の研究では、階層の数と建設された時期の古さに関係があるとされていた。
より深く大きなダンジョンほど歴史があり、未知の技術が眠っている。
俺たち第七ダンジョン探査団が潜っているダンジョンは、王国が保有するダンジョンの中で最も古いと予想されている。
ただし深すぎて、未だに底が何階層なのかわからない。
加えて、現在に至るまでロクな物が見つかっていない。
一部の者からは、ただ深いだけのゴミ捨て場だったのでは、という声すら出ていた。
「ふぅ……今日でこのダンジョンともお別れか」
森の中にあるダンジョンの入り口で、俺は独り言を呟いていた。
この探査が終わったら探査団は解団、俺は解雇。
せめてお金になりそうな物でも見つかってほしい。
そう切に願いながら、俺たちはダンジョンへ潜っていく。
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