13.あの顔は確実に変態だ
「ユリウス様、助けて頂いたこと心から感謝いたします。本来ならば国を代表してお礼をしたいところですが、今の状況では何もお返しできず……申し訳ありません」
「お気になさらないでください。困っている人がいれば助ける。騎士として当然のことをしたまでですから」
「あたしらは騎士じゃないけどな」
おいアリア。
せっかく格好良いセリフを言ったのに、余計な口を挟まないでくれよ。
「ふふっ、ユリウス様は騎士だったのですね」
「え、あーはい。そうです」
「ダンジョン探査団ともおっしゃっていましたが……失礼ですが、どこからいらしたのですか?」
「えーっと、カーバル王国です」
「カーバル王国!?」
レティシア姫は目を丸くして驚いた。
さすがダンジョン大国と呼ばれているだけあって有名だな。
「ではここへもダンジョン調査へ?」
「まぁそんな所ですけど、今はカーバル王国とは無関係です」
「そうなのですか?」
「はい。色々ありまして」
殺されかけて国王をぶっ飛ばしたとか。
色々の部分はさすがに言えないな。
怪しまれている様子はないし、一先ずは安心か。
姫様は何か考えているみたいだ。
「あの……もしよろしければこの――」
「レティシア」
姫様が何かを言いかけて、それを国王の低い声が遮る。
ビクッと反応した姫様は、申し訳なさそうな表情を見せる。
「気持ちはわかるが、我々の事情に彼らを巻き込んではならん」
「……はい」
何やら含みのある言い方に興味をひかれる。
消滅寸前の国家には、まだ続きがありそうだ。
レティシア姫が時計を見る。
「そろそろ時間が……」
「うむ」
「時間? 何か予定があるのですか?」
「……はい。実はもうすぐ、セドニカ王国の第一王子……ルグド様がお見えになられるのです」
セドニカ王国の王子?
俺は自分の耳を疑い、彼女に問う。
「セドニカ王国って敵国ですよね? ダンジョンを奪ってこの国を追い詰めた国の王子がどうして?」
「それは……」
レティシア姫はさっきより言いたくなさそうな顔を見せる。
すると、代わりに国王が口を開く。
「あちらの王子が、レティシアに縁談を持ち掛けてきたのだ」
「縁談!?」
思わず声に出てしまった。
敵国の王子と縁談?
いよいよもって意味がわからない。
俺は経緯を尋ねる。
「どうしてそんなことになっているんですか?」
「私も……こうなると思っていなかった。いや、あるいは最初からこれを狙っていたのかもしれないな。話が来たのは一月前だ。突然、あちらから一方的に通知が来た。ルグド王子からレティシアに、自分の妾になれ。そうすれば、セドニカ王国が我が国の復興を援助しようと」
国王の話によれば、ルグドという王子は女好きで有名らしい。
気に入った女を見つけると、王子の特権を利用して自らの物にしてしまう。
奴隷、使用人、愛人と肩書はめちゃくちゃだが、身体が目当てなのは間違いないという。
レティシア姫は綺麗な人だから。
銀色の長い髪と、青い瞳に白い肌は、この崩壊しかかっている城にいても、優美さを感じさせる。
そこをルグド王子に目を付けられ、復興を餌に自分の女になれと言ってきたようだ。
自分たちで攻め込んだくせに、復興を手伝おうなんて……
「虫の良い連中だな」
アリアがぼそりと口にした。
俺と同じように、彼女も不愉快な気分になっているようだ。
そして、一人の兵が部屋にやってくる。
「陛下、姫様。ルグド王子がお見えになられました」
「っ、そうか」
「お父様は休んでいてください。私が応対いたしますので」
「いや待てレティシア、私も行こう」
国王様はベッドから降りようとする。
それを姫様が引き留めているが、国王は無理でも出ようと言ってきかない。
よほど心配なのだろうと察して、俺が提案する。
「でしたら、我々が同行しましょう」
「ユリウス殿?」
「姫様の臣下、という風に説明して頂いて構いません。何かあれば、必ずお守りしますので、陛下はどうかお休みください」
「……本当にいいのか?」
「はい」
「……すまない。レティシアを頼む」
国王に頭を下げられたら、応えない騎士はいない。
ルグド王子がどんな方なのかも気になるし、当初の予定通りダンジョン探査をするには、この国がなくなってしまうと困る。
「みんなも良い?」
俺が尋ねると、四人が揃って頷いた。
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王城の入り口から馬車が入り、鎧を纏った騎士たちが配列を組む。
そこから一人の男性が降りてきて、わざとらしく大げさに、金色の髪をサラッと靡かせる。
「やぁ、レティシア姫。お出迎えご苦労だね」
「ルグド様、本日はお越しいただきありがとうございます」
「そう畏まらないでくれ。君と私の仲じゃないか」
清々しい笑顔を見せるルグド王子。
それを横から見ていた俺たちは、奇しくも全く同じ感想が浮かぶ。
あんなに胡散臭い笑顔初めて見た……
言葉の中に気持ちがまったく籠っていない。
いや、隠しきれない欲が詰まっているだけだ。
笑顔は清々しいのに、レティシア姫を見る視線はひどくいやらしい。
「あの顔は絶対に変態だね、うん」
「おいリルタ。聞こえたらどうするんだよ」
「大丈夫だよ。見ての通り彼、姫様の胸に夢中だから」
本当に夢中で、聞こえていなかったようだ。
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