12.弱小国家
「か、兄貴!」
「てめぇ……兄貴に何しやがる!」
「え? こいつがリーダーだったのか?」
「どうやらそのようだね」
うわ……何だか申し訳ない気分になるな。
別に相手は悪者だし、気にしなくて良いのか。
「頭がやられたんだ。お前たちも降伏するか?」
「ふざけんじゃねぇぞ!」
罵声をはき、男たちは武器を構える。
降参するつもりは、どうやらないらしい。
「仕方がないな。アリア」
「おう!」
俺とアリアは剣を抜く。
「ここは俺たちに任せてくれ。リルタ、城を覆える結界はある?」
「あるよ。三分くれるかい?」
「わかった。その間に敵は掃討しよう。エリーも友達の力を貸してほしい」
「任せて!」
エリーには城内に残っている賊と、生き残った人がいないか探してもらうとして。
こっちも早く手を打たないとな。
「ナナリ、傷を見てほしい」
「了解」
ぱっと見の傷は深そうだけど、まだ息はある。
彼女の回復魔術なら大丈夫だろう。
「よし、三分で終わらせるぞ!」
俺とアリアが先陣を切り、前方の敵を斬り倒していく。
アリアの魔剣は切れ味抜群だ。
受けようとした剣ごと斬り裂く鋭利さを見て、男たちは怯えだす。
問答無用に斬りかかる姿は、まるで鬼のようだ。
「やり過ぎるなよ」
「は? こいつら悪人だろ?」
「そうだけど、玉座の部屋を死体で汚したくないんだ」
「何だそれ。騎士みたいなこと言うよな」
「騎士なんだよ!」
ツッコミを入れる余裕があるほど、敵との実力はかけ離れていた。
その隙にエリーが横を通る。
「みんな~ いっくよ!」
テイムしたモンスターを一斉に召喚。
彼女はモフモフした生物が大好きで、動物系モンスターを仲間にしている。
ニュルニュルとか無視は苦手。
トカゲとか爬虫類に似ているモンスターは、格好良ければ仲良くなりたい。
そんな彼女のとっておきはレッドドラゴンだが、ここでは出せないな。
「あ、あの……お父様は治りますか?」
「問題ない。生きてるなら治せる」
頼もしい言葉が聞こえてきたな。
そしてもう一人も――
「助手君! 準備できたよ」
「え、もう?」
まだ一分くらいしか経過していないぞ。
「三分は最大の時間だよ。ボクの手際の良さは知っているだろ?」
「そうだったな」
本当に頼もしい。
こういう場面で、彼女たちが仲間で良かったと心から思う。
「問題さえ起こさなければな~」
「ぼさっとすんなよ」
「大丈夫」
もう終わった。
目の前にいた敵を斬り伏せ、全員が倒れ込んでいる。
「エリーの手伝いに行こう」
「それも必要ないみたいだぞ」
「ん?」
アリアが上を見上げる。
天井には俺たちが入ってきた大穴が開いていた。
そこからチラリと、ブラックウルフに乗ったエリーが見えて、そのまま落ちてくる。
「終わったのか?」
「うん! 悪い人たちはみーんなやっつけたよ! 怪我している人がいたから、今みんなに運んでもらってるの」
「よくやった」
エリーは嬉しそうにほほ笑む。
「ぅ、う……」
「お父様!」
後ろから姫様の声が聞こえて、俺たちは振り向く。
ナナリの治療が終わった国王が意識を取り戻し、姫様が涙を流して抱き着いていた。
脅威は去り、リルタが結界を展開する。
これで一先ず、一件落着かな?
「お疲れさま、みんな」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
ソムエール王国は、広大な自然に囲まれた緑豊かな国だった。
少なくとも二年ほど前まで、十万人以上の人々が王都で暮らし、平和なひと時を過ごしていた。
しかし、悲しい事件をきっかけに平和は突然終わる。
ソムエールが保有する二つのダンジョンに、隣国セドニカが無許可で調査を行っていたのだ。
明確な領土侵犯に抗議した結果、セドニカはソムエールに宣戦布告する。
唐突かつ一方的な布告だったこともありソムエールは戦争を拒否した。
だが、そんなことはお構いなしに、セドニカは軍を動かし、ソムエールの首都を攻撃した。
「我々も抵抗したが、あちらの方が軍事力は上だ。加えて、こちらの準備が整う前に攻め込まれてしまった……おそらく、初めから戦争で奪い取るつもりだったのだろう」
そう国王はベッドの上で語った。
盗賊団の騒ぎから三時間後の現在、俺たちは王城の一室に集まっている。
国王の傍らには、この国の姫様も一緒だ。
「ダンジョンを奪われてからは、どうなったんですか?」
「君たちの想像通りだ。戦争で多数の死者が出た。ダンジョンも失い、文明の進化も止まる。そんな国に愛想をつかし、国民はセドニカに亡命したよ。最後の都市である王都に残ってくれた民もいたが……今は二千人弱といった所だろう」
元は十万人以上の人がいて、今はたったの二千人か。
国王の話では、戦争後から続く不作と資源不足により、人口はどんどん減ったのだという。
加えて半年前の流行病が原因で、王妃は命を落としたそうだ。
城内の兵や使用人の多くも倒れてしまった。
エリーが助け出した兵士も半数は手遅れで、生き残ったのは二十二人。
それが現在のソムエール王国。
言わずもがな、弱小国家となり果てた城は、ボロボロの廃城同然だった。
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