11.姫様を助けよう
城という言葉を聞いて、どんな景色をイメージするだろうか?
白い壁とか、尖がった屋根とか。
そういう細かい部分は置いておくとして、まず煌びやかな風景を思い浮かべるに違いない。
国で一番偉い人が住んでいる家だからな。
豪華であってしかるべきだ。
だから、俺たちは等しく驚いた。
壁が壊れ、天井に穴が開き、庭だったような枯れた草木が地面を覆う。
およそ偉い人が住んでいるとは思えない。
みすぼらしくて、無残な城がそこにはあった。
しばらく唖然として、俺たちは上空から見下ろす。
すると、何かに気付いたアリアが声をあげる。
「お、おい! あそこ!」
声を聞いてパッと気付く。
穴が開いた天井部分から煙が立ち上っている。
加えて小さい点がズカズカと城内へ入っていく様子が見えた。
「助手君、高度を下げられるかい?」
「ああ」
箱舟を王城に近づける。
そうして見えてきたのは、城に似合わない風貌の男たちが、武器を持って城内へ侵入している様子だった。
「テロか? 兵は何をやっているんだ?」
「考えるのは後だよ助手君。どうするか決めるのが先だ」
「んなもん決まってんだろ!」
アリアはすでに剣を腰に装備している。
ナナリも目を覚まし杖を構え、エリーとリルタも俺の回答を待つ。
「放ってはおけないよな。行こう」
「「「「おー!」」」」
船の高度をギリギリまで下げる。
下からは見えない魔道具も、太陽の光を遮れば影をつくる。
城内へ侵入していた男の一人が、不意に覆った影に気付き、空を見上げた。
「ん?」
空は晴天。
雲一つない。
太陽を遮るものはないにも関わらず、自分のいる場所は影に覆われている。
疑問を感じ足を止め、次の瞬間には――
「ごっ……なっ……んだ?」
首を打たれ倒れ込んだ。
そこへ降り立つ俺たちに、周りの男たちが気付く。
「な、何だてめぇら!」
「ちっ、まだ兵が残ってたのか?」
武器を手に取り囲む。
いるのは下っ端ばかりだろう。
「ナナリ」
「うん」
ナナリが杖を先をトンと地面にあてる。
「退いて」
彼女の一言を合図に、俺たちを中心に外へ衝撃波を放つ。
「ぐおあっ」
叫び声をあげて、男たちは吹き飛び壁にぶつかる。
壁にぶつかった男たちは意識を失い、ボトリと落ち地面に転がった。
そのまま俺たちは城内へ入る。
男たちの風貌からして敵国の兵とかではなさそうだ。
おそらく野盗の類か。
こんなボロボロの城に金目の物がわんさかあるとも思えないし……
だとすると狙いは――
「王族か?」
「一番可能性が高そうだね」
「ああ、急ごう」
ボロボロとは言えここは城だ。
国が違えど、城の構造は似通っている。
国王がいるとすれば最上階。
階段を駆け上がりながら、アリアが愚痴をこぼす。
「くっそ! はなっからもっと上に降りればよかったぜ」
「それだ!」
「は?」
一旦窓の外に出て上へ昇れば良い。
外からの移動はエリーのモンスターで、人の感知はナナリの魔術で。
「ナナリ!」
「うん。いるよ」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
錆びた玉座の前に、国王はいる。
その傍らには、第一王女のレティシア。
男たちは謁見を求め配列を組む、わけではなく、無粋に不作法にズケズケと王座の間を汚す。
「ぐ、ぅ……」
「お父様!」
「レティシア……私に構わず逃げなさい」
「そんなことできません。お父様を置いていくなんて」
国王ローベルトは、腹に短剣が刺さり血を流している。
すでに失血で意識も朦朧とした状態で、レティシアに抱きかかえられていた。
そこへ迫る野蛮な男たち。
リーダーらしき一人の男が、いやらしいニヤケ顔で言う。
「安心しろよお姫様~ 死にぞこないの老いぼれはどっちでもいいけど、あんたは殺さないから」
「黙りなさい!」
「おぉ~ 気が強いね~ その威勢の良さもマニアにはたまんねぇーだろうな~ こいつは予想より高く売れそうだ」
彼らは金目の物を奪い、攫った人を奴隷として売りさばく。
そういう商売で大きくなった盗賊団だった。
汚れ切った手に持つ武器には、抗った誰かの血がついている。
その剣で次に、国王の首を撥ねるつもりなのだろうか。
男は無造作に、二人の元へ歩み寄る。
「痛い思いしたくなかったら抵抗――」
恐怖で目を瞑りかけるレティシア。
ドカンと天井が崩れる音と共に、五つの影が降り立つ。
「ぐえ」
「ん? 何か踏んだぞ?」
「下、人いる」
「えっ? この上ならいないって言ったよな? ナナリ!」
「……」
「都合の良いときだけ無視しないでくれるか?」
「そう焦らなくても大丈夫だよ、助手君。ほら、その人どう見ても敵だから」
「ああ、ならいいけど」
ふぅー、危うく俺が賊になる所だったよ。
慣れないことするとヒヤヒヤさせられるな。
「あ、貴方たちは?」
「俺たちは――」
どう答えるべきだろう。
少し悩んで、一先ず安心してもらえるように笑顔で答えた。
「通りすがりのダンジョン探査団です」
「ダンジョン?」
「助手君、それじゃ意味不明だよ」
「センスないな」
「ユリウス君! 第七が抜けてるよ!」
「……」
ナナリはせめてコメントしてよ。
とりあえず盛大に失敗したことはわかった。
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