10.ソムエール王国
「つまり何が言いたいのか。助手君ならもうわかるんじゃないかな?」
リルタが俺に指をさす。
全員に視線が俺に集まってしまった。
わかるんじゃないかって、そう簡単に言われても……
「ノアのダンジョンと同じ物、もしくは同規模のダンジョンがある?」
「……」
おや?
リルタはノーコメント。
一番ありそうなことを言ったけど、外してしまったか。
「さすが助手君! そういうことだよ」
ホッとした。
何だ当たってたのか。
ほとんど当てずっぽうだったけど良かった。
逆に今の間は何だったんだ?
「ノアって奴が別の場所にもダンジョンを作ってたってことか?」
「うーん、そこはまだ不明だよ。書斎にあった本を調べたけど、それらしい記述はなかった。そもそも古すぎて、一部は読めなくなっていたしね。だからこれは仮説だ。仮説は立証して初めて事実になる」
ここまで話されれば、リルタの我儘が何なのか全員に伝わっただろう。
俺の口から言わせたいのか、じーっとこっちを見ている。
「要するに、ここへ行ってみたいんだな」
「そういうことさ」
リルタは嬉しそうに笑った。
こういう時折見せる女の子らしい一面があるから、彼女の実験にも何だかんだで付き合ってしまうんだよな。
我ながら単純だと呆れる。
「俺は良いけど、みんなは?」
「私もいいよ!」
「あたしもいいぜ。どうせ剣を作りたくても素材が足りないし、ダンジョンに良さそうなもんがあればラッキーだな」
「……任せる」
「じゃあ決まりだ」
船の進路を変更する。
向かう先は、大陸の東の果て。
現在の地図と見比べると、そこにはソムエールという王国があるようだ。
「ソムエールか。聞いたことない国だな」
「ボクは名前だけは知っているよ。確かダンジョンを二つ所有していたかな? 海に面した自然豊かな小国だったと思うよ」
「十分知ってるじゃないか」
「これも城の資料で見ただけさ。実際どうなっているかまでは知らないからね」
リルタ曰く、古い資料だったから当てにならないかも、だそうだ。
古いと言っても十年かそこらだろうし、劇的に変化しているとは思えないが、念のため用心することにした。
用心と言えば……
「この船……さすがに目立つよな?」
「だろうな。真っ白だし、なんせ飛んでるからな」
アリアの言う通りだ。
ソムエール王国を目指すにしても、このまま王国の上空から初めましてするわけもにいかない。
それなりに距離もあるし、今は雲海の上を飛んでいるけど、空を見上げて純白の船が飛んでいたら、すぐ噂は広まるだろう。
俺たちはカーバル王国から抜け出してきた。
経緯はともかく、結果だけ見れば犯罪者と変わりない。
正直あまり目立ちたくはないな。
「リルタ、この船を透明にしたりできないか?」
「できるよ」
「できるのかよ!」
思わずツッコミをいれるアリア。
平然と出来るなんて答えるリルタは、さすがとしか言えない。
「手持ちで適当に作るよ。一時間くらいもらえる?」
「頼むよ」
「い、一時間で出来るのか……もう何でもありだな」
「アリアも大概だけどね」
「え?」
魔剣が作れるのが世界で自分一人だってこと、アリアは忘れてるのかな?
俺からすれば、ここにいる俺以外全員、規格外の天才なんだよ。
「はぁ……今更だけど俺だけ場違いだな」
「そんなことないよ! ユリウス君は世界でいっちばん優しくて、頼りがいのある人だよ!」
「そ、そうか?」
何だか照れるな。
エリーは屈託のない笑顔を見せる。
「助手君は自己評価が低いね。ボクから言わせてもらうと、君は十分すごい男だと思うけどなぁ」
「な、何だよ急に」
そんなこと初めて言われたぞ。
エリーに続いてリルタまで俺を褒め始めた。
「早々いないよ? 自国の王様に啖呵を切ったり、思いっきりパンチ出来る人なんてね」
「そ、それを言うなよ」
「はっはは。それにさ? ボクらみたいに世間からずれた奴らと一緒にいて、一年も逃げずにいてくれたのは君だけだよ」
ずれてるって自覚あったのか。
いや、今はそこじゃないな。
リルタが言いたいことは――
「つまり、君はボクらにとって特別だってことさ」
そういうことだ。
ハッキリ言葉にされると、心にジーンとくるものがある。
そんな風に思ってくれていたのか。
だとしたら、振り回され続けた日々も報われるかもしれないな。
「うん! ナナリちゃんもそう思うでしょ?」
「ナナリならそこで寝てるぞ」
「もう!?」
いつも通りだ。
彼女たちと話していて、自然と笑いが込み上げてくる。
振り回されるのは疲れるけど、こういう瞬間は悪くない。
むしろ、好きだ。
口には恥ずかしくて、言えないけど。
そうして、空の航海を続けて十日。
下から見えない仕掛けを施された船は、目的地であるソムエール王国の国土に入った。
高度を下げながら、首都を目指す。
情報は少ないけど、海と自然に囲まれた豊かな国らしい。
カーバル王国とは違った良さがありそうだなと、期待していた。
のだが……
「ここが首都?」
「だろうね。お城もあるし」
普通、城まであって疑う余地はない。
ただ……今回は疑わせてほしい。
なぜならそこは、予想していたよりも遥かに――
「ボロボロじゃないか」
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