1.第七ダンジョン探査団
王座の間。
仰々しい扉に閉ざされた部屋の奥には、黄金の装飾が施された椅子がある。
その椅子に座ることが出来る人物は、このカーバル王国でたった一人。
国王ガイバル・ロバーストだけである。
ガイバルが見下げる先には、男が一人と女が四人、膝をつき頭を垂れていた。
「では報告を聞こうか? ユリウス・ペンデュラ」
「はっ!」
名を呼ばれた俺は、大きくハッキリと返事をした。
陛下は続けてこうおっしゃる。
「此度のダンジョン探査、その成果は?」
「……何もありません」
「ん? よく聞こえなかったな。もう一度、聞こえるように言い給え」
「……」
ああ、言いたくない。
でも言わなければならない。
これで何度目だ?
そろそろ陛下もわかってくださる頃だろう。
ならばいっそ、堂々と開き直ったように大きな声で報告しよう。
俺たちダンジョン探査団の成果は……
「何の成果も得られませんでしたっ!」
「この恥知らずがぁ!」
めちゃめちゃ怒られました。
全員まとめて、地下の反省室送りです。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「はぁ……」
盛大なため息が、暗くジメジメした地下の反省室に響き渡る。
そんな俺に声をかけてくる一人の少女。
「あんまり落ち込まないで、ユリウス君」
「エリー……」
彼女はポンポンと俺の頭を撫でながら言う。
「大丈夫だよ。きっとまた三日くらいで出してもらえるから」
「そういう問題じゃないんだよ!」
「うわっ!」
大声を出した俺にビックリして、エリーは頭を撫でていた手を退けた。
すると、そんな俺の声に反応した残り三人が文句を口にする。
「うるっさいな~ 響くんだからもうちっと静かにしろよ」
「そうだぞ助手君。せっかく新しいアイデアが浮かびそうだったのに、今のでとんでしまったじゃないか」
「……眠い。あとで起こして」
「好き勝手言うんじゃない! お前たち、今の状況わかってるのか?」
四人ともキョトンとした表情で俺を見る。
どうやら切羽詰まったこの状況を理解しているのは、俺だけのようだ。
「ダンジョン探査を始めてもう一年だぞ? それだけ期間があって、一つも成果らしい成果を見つけてないなんて……いつクビにされてもおかしくないんだぞ? 今回だって、せっかく新しい階層までたどり着けたのに……」
「だいじょうぶー、大丈夫~ いつものことだもん」
「そうだね。それよりボクは研究室に戻りたいな。ここでは魔道具の研究も出来ないし」
「あたしも早く鍛冶場戻りたいなぁ」
「もう良い? 眠い」
「……」
もはやため息すら出なかった。
どうしてこうなってしまったのか……
ダンジョン。
それは、はるか昔に生きた者たちが現代に残した遺産の宝庫。
初めてダンジョンが発見されたのは、今から約三百年ほど前のことだ。
未知の技術、道具や知識の宝庫だったダンジョンは、俺たち人類の生活に大きな影響を与えた。
一つ目の発見を切っ掛けに、世界中でいくつものダンジョンが発見されていった。
ダンジョンは宝の山だ。
その所有権を国家同士が争い、戦争になった歴史さえある。
より多くのダンジョンを保有し、そこから何を得られるかによって、国は更なる発展を遂げるだろう。
ダンジョン探査団に選ばれることは、とても名誉なことだ。
俺たちの探査結果が、そのまま国の発展に繋がる。
故に、その期待は大きい。
探査団のリーダーに選ばれた時は、ようやく自分の実力が認められたのだと喜んだ。
集められたメンバーも、天才と呼ばれている四人だし、これなら余裕で成果をあげられるのでは?
と、勝手に思い込んでいた頃の自分を殴りたい。
確かに天才ではあった。
ただ……蓋を開ければ問題児ばかりだった。
「早くお外に出たいな~ みんなとお散歩できないのは寂しいよ~」
天才テイマー、エリー・ルフラン。
桃色のふわっとした髪が特徴的で、見た目はおっとりニコニコしている女の子。
そんな見た目から想像できないが、彼女は百を超える魔物を従え、その中には伝説級の魔物もいるという天才テイマーだ。
仮にドラゴンが攻めてきても、彼女一人いれば何とかなるとさえ言われている。
ただ、テイムした魔物を一斉に放って散歩させたり、勝手に城の食料を持ち出したりして、よく反省室に閉じ込められていた。
単身での入城は禁止されている。
「新作魔道具の実験途中だったのに」
天才魔導士、リルタ・サラン。
薄緑色のショートヘアに、黒い眼鏡姿は知的な印象を与える。
様々な魔道具を発明し、国の技術力を大きく発展させた功績を持つ。
しかし魔道具への愛が変態的過ぎて、それ以外に興味がない。
依頼とは無関係な魔道具を勝手に作り、材料を空っぽにしたことや、実験と称して城の一部で対爆発を起こすなど、見た目に似合わず破天荒。
彼女も、単身での入城は禁止されている。
「あたしも新作魔剣の試作が中途半端で止まってんだけどな~」
天才鍛冶師、アリア・レーベル。
燃えるような赤い髪と褐色肌、小柄だが腕っぷしの強さは男勝り。
世界中でたった一人、魔剣すら作れる鍛冶師だが、気に入った相手にしか魔剣は使わせない。
勝手に使うと問答無用で斬りかかってくる乱暴さを持ち、以前に騎士団員を昏倒させたこともある。
その際に城の柱をぶった切りった。
もちろん、単身での入城は禁止されている。
「スゥー、スゥー」
天才魔術師、ナナリ・グレイマン。
水色の髪と瞳、魔術師のローブと杖がよく似合う、いつも眠そうにしている女の子。
王国一の才能を持つ魔術師で、これまでに二桁の新魔術を考案している。
のだが、基本的にやる気がなく、新魔術も無理やり作らされたに過ぎない。
究極のサボり魔で、暇でも暇じゃなくても寝ている。
酷いときは王座の間で寝ていたこともあったとか。
念のために単身での入城は禁止されている。
「はぁ……もう嫌だ」
そして俺、ユリウス・ペンデュラ。
平民から成り上がった騎士であり、第七ダンジョン探査団のリーダー。
という肩書が与えられているだけで、実質問題ばかりの彼女たちの世話役だ。
成果ゼロダンジョン探査団。
ロクデナシの集まり。
言うこと聞かない子供用の託児所。
不名誉な仇名ばかり増えていく日々に、そろそろさよならしたいよ。
新作投稿しました!
タイトルは――
『パーティーを追放された付与術師、宮廷に雇われる ~お前の付与なんて必要ない? 言った傍から苦戦しているようですが、今さら戻るつもりはありません。付与してほしいなら国へ正式に手続きをしてくださいね?~』
ページ下部にリンク(12/8正午以降)がありますので、ぜひぜひ読んでみてください!
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