5・五天王じゃなくてよかった
まあね、脈絡もなく突然バトルってのもさ、必要なのは分かるよ?
とりあえず盛り上げとく? みたいなあっさ~いノリをツギハギしてんのがクソラノベだからさ。
でもだよ? 物語の主題というか、目的みたいなモンを説明すらせずおっぱじめるってのは、どうなのよ?
……と、思ったんだけど。
そもそも、チートがハーレム作りとドヤ顔無双するだけのクソラノベに、目的なんてありゃしないよなあ……。
ただsugeee! とtueee! のコンボだけ炸裂させてりゃ、それでいいんだもん。
てな感じで現実的かつクソラノベ的に状況を分析しつつ、オレは周囲に目を配った。
グラスを抱き抱えている事を思いだし、声をかけた。
「大丈夫か?」
「は……はい。ありがとう……ございます……」
顔を向けると、頬を赤らめたグラスが熱に潤んだ目でオレを見上げている。
ただでさえ今の爆発以上に破壊力があるビジュアルだってのに、『赤く染まる頬』『潤む瞳』なんつうスキルまで発動されたんじゃあ、健康な男子としてはたまったもんじゃない。
お姫様抱っこをした手に伝わる柔らかさと温もり、鼻腔を優しく撫でる甘い香り……。
ああ……『チョロイン』ってのも、一種のチートだよな……。
「なんだ、あいつらは……?」
お約束のラブコメシーンが、いつの間にか隣にいたルキフルの殺気だった声で強制終了した。
視線の先を見ると、人影が四つ。正面に位置する空中に浮かんでいた。
フード付きの長いマントで、顔と全身をすっぽり隠している。
「いきなり攻撃してくるなんて、あまりマナーが良くないゲストだね」
「手土産が爆発なんて、派手好きなお客さんもあったものですねえ」
軽口を叩きながら、ノエルとレイが合流した。
ノエルは足元の魔方陣で、レイは輝くマントで、ルキフルは黒いオーラのような翼で、それぞれ飛んでいるようだ。
なんか、身体が光るだけのオレが一番地味だな。
なんて事はどうでもよくて、だ。
あいつらは一体なんなんだ? っていう誰もが抱いていた疑問を、ルキフルがストレートにぶつけた。
「何者だ、貴様ら!」
答える代わりに、四人は低く笑い始めた。
そのうちの一人、リーダー格らしき男が、笑いを納めて答えた。
「我らは世界を統べし大魔王、サタギアナ様直属の四天王! 女神グラス! 貴様の命、もらいうける!」
いや、何いってんだこいつ。
いきなり四天王ってなんだよ。
だいたいだな、貴族にも姫様にも王様にも可愛い仲間にも美人の仲間にも巨乳の仲間にも貧乳の仲間にもケモミミの仲間にもツンデレの仲間にもヤンデレの仲間にも、まだ会ってないんだぜ?
驚き役兼惚れ役がいなんじゃ、クソラノベが成立しないだろが!
どうやらこの世界の大魔王とやらは、常識ってもんを知らないらしい。部下の教育くらいちゃんとやっとけっての。
しかしまあ、五人じゃなくて四人よこした所は評価できるポイントだ。
だって五天王だと半端になっちゃうし、なんか語呂も悪いからね。
「初戦で四天王? これはまた、急な展開だねぇ」
ため息まじりにノエルがぼやいた。
危機感がまるでないあたり、流石といえば流石だ。
「セオリー無視もいいとこですよ。まずはゴブリン狩りに行って、本来いるはずのないゴブリンロードとトロールキングも倒しちゃった、くらいから始めるべきなのに」
「わたしは最初にブラックドラゴンだったけどね」
「え? 出だしからそんなにショートカットしちゃったんですか?」
「うん。なんか酔っぱらった勢いで魔竜の巣に行ったら出くわしたみたいでね。倒したついでに卵持って帰ってきちゃった。覚えてないんだけど」
「その卵、どうなったんです?」
「置いといたら孵化した。なんでも、わたしの魔力の影響ですぐに産まれちゃったんだってさ。今はペットにしてるよ」
「初戦でドラゴンって……雑すぎやしませんか……」
ごめん。
オレも、初戦が古代龍だったんだ。
「何をゴチャゴチャいっているのだ! 命乞いの相談か!?」
いや、ごめん。
クソラノベのガバガバ展開について語ってただけなんだ。
「無駄な事はやめるんだな人間共! ついでに貴様らも殺してやる!」
何がついでなんだかまるで分からないんだけど、ともかく四天王の皆さんはやる気マンマンみたいだ。
それじゃあまずはセオリー通り、あいつらを分断して一対一の個人戦に持ちこむ所から始めようか。
四天王なんていうくらいだ。まとめて相手すると、連携のとれた闘い方をしてくる可能性がある。
そこが唯一、オレ達みたいな寄せ集めじゃ敵わな……
ズドドオオオオオォォォォォーーンッ!!
えぇ……。
視界いっぱいに、黒い爆炎が広がった。熱風を受けながら、首を右に巡らす。
「我を前に……世界を統べる? ついでに、殺す? よくぞ吠えたものよ……」
突き出したルキフルの右手から、ブスブスと黒い炎が燻っていた。
こいつ……いきなりぶっぱなしやがった……。
こうなったらもう、分断もクソもない。相手の出方を見て、良くいえば臨機応変、悪くいえば成り行き任せでいくしかない。
立ちこめる黒煙で、四天王達の姿は見えなかった。死んだって事はないだろうから、ここからバトルスタートだよな。
「グラス、飛べるな?」
「は……はい」
「じゃ、離れてろ」
「わ、分かりました」
背中に光を集め、グラスは翼を出した。手を離すとふわりと浮き上がり、心配そうな目を向けてくる。
「あの、お気をつけてください」
「大丈夫だ。危ないから早く離れろ」
「はい」
グラスの姿が小さくなっていく。
見送ったオレは、ようやく晴れてきた黒煙に目を戻した。うっすら見える影は、もはや人の形ではない。異形のそれだ。
「さて、と……」
「それじゃあ、始めましょうか」
「仕方ない。黒煙……いや、火の粉が降りかかったならば、払うしかないね」
「雑魚共が。消し炭にしてくれるわ!」
所詮はクソラノベ。
細かい作戦なんてまあ、ガバ展開にゃ必要ないってか。