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4・不法侵入、ダメ。ゼッタイ。

 

 事実は小説より奇なり、なんて言葉がある。あんなもん、ウソだ。

 と、今までは思ってたんだけど、よくよく考えてみるとウソじゃないよな。

 たまたま両親が英雄だった、とか。

 たまたま強者として生まれてしまった、とか。

 たまたま助けた誰かがどこかの神様で、とか。

 たまたま超絶スキルを持ってて、とか。

 たまたまチートな才能を磨く時間と環境を与えられて、とか。

 そんなご都合主義丸出しな偶然ねえよ!

 と、ツッコむのが、ごく一般的な反応だと思うんだけど、それが実際に起きたのがオレ達なんだ。

 そして、あちこちの異世界にいるクソラノベのテンプレ通りに冒険したチートの内、四人を一ヶ所に集めたってんだから、十分に小説以上の『奇』だろう。

 今の状況はまさに、冒頭の言葉そのものだ。


「元、ニートと魔神王とゲームオタクとサラリーマンのチートか。よくもまあ、これだけバラエティーに富んだメンバー集めたもんだ」


 素直に、オレは感心していた。

 何が凄いって、四人の設定がかぶっていないってとこだよな。それだけ世にはチートが溢れてるってわけだ。


「君って、ヒキニートにしては堂々としているよね」


 オレに笑いかけながら、のんびりとノエルがいった。

 金髪を後ろで束ねた、甘いマスクの男だった。垂れぎみの青い瞳は、いかにも女子受けが良さそうだ。

 白を基調とした詰め襟の衣服には金糸の刺繍が施され、大小の宝石が惜しげもなく散りばめられている。

 深紅のマント一枚を取っても相当値が張るだろう事が一目で分かる、王族らしい出で立ちだった。


「そりゃそうさ。領主だ貴族だ姫様だ王様だ、エルフの長だの亜人の族長だの獣人の守護神だの、あげくのはては龍神王にまで会わなきゃならなかったんだぜ? コミュ力もつくってもんでしょ」


 上流階級の余裕なのか、おおらかな雰囲気がノエルにはある。オレの口調も自然と砕けたものになった。


「確かに、彼らのプレッシャーに慣れちゃったら、今さら人間相手に臆するわけないですよね」


 同意したレイの言葉に、ノエルがうんうんと頷いている。この辺は、同じような経験をした者なら分かるはずだ。

 全員がお互いにシンパシーを感じたんだろう。ごく自然に、オレ達は打ち解けていた。


「しかし、チートなんて自分以外は初めて見るな。まあ、よろしく」


「こちらこそ、よろしくです」


「うん。よろしく」


「我に並ぶ強者、か……。ふむ……」


 ルキフルの金色の目が、鋭さを増した。

 彫りの深い精悍な顔立ちに銀髪を襟元まで伸ばしている。

 細身だが均整の取れた長身には、独特の威圧感があった。黒い鎧と服装が、その雰囲気に拍車をかけている。


「おいおい。闘おうってのはなしだぜ」


「そうだね。わたし達が本気で()り合ったら、この世界がなくなってしまうかもしれない」


「なんのために来たのか分からなくなっちゃいますよねえ」


 いってはみたものの、さすがに本気じゃなかったんだろう。すぐにルキフルは納得しように頷いた。

 無愛想だが、悪いヤツじゃなさそうだ。


「そういや、みんなが倒した魔王って、どんなだった?」


「ボクの所は、頭を使うタイプでした。城に行ったら四天王と一緒に待ち構えていましたよ。全員まとめて相手してたら、倒すのに三十分くらいかかりました」


「そりゃまた面倒な展開だったな。オレは脳筋タイプの魔王だけだったから、十分で終わったわ」


「四天王なんてまだマシだよ。ウチのなんて分身をはじめてしまってね。千体くらいに増えたものだから、一時間ほど闘ってたよ」


「なんで増えるの待ってんだよ」


「美人だったから、目の保養にね。途中で見飽きてしまったけど」


「ああ、女性の魔王だったんですね」


「ルキフルんとこは?」


「デカいヤツだった。なんでも、小惑星? とかいうのと同じくらいの大きさがあるとかいってたな」


「どうやって倒したんですか?」


「殴ったら死んだ」


「ただのデカブツだったわけか」


「かつて我の部下だったそうだ。下っ端すぎて顔すら知らなかったのだがな」


「うわあ……残念な扱いですねえ……」


「あの、皆さん」


 グラスが声をかけてきた。四人で一斉に顔を向けると、気圧されたように半歩下がっておずおずといった。


「そ、そろそろ、詳しいお話をしたいのですが……」


 そうだった。無駄話にかまけて、肝心な事を聞いていなかったのを忘れてた。


「ああ、ごめんごめん。なんかオレ達だけで盛り上がっちゃって。んじゃ、話聴こうか」


「と、いっても、この世界を救ってほしい、的な事ですよね?」


 レイの言葉に、グラスは頷いた。


「は、はい、おっしゃるとおりです。このナーロッパを支配しようとしている大魔王を倒していただきたいのです」


 まあ、予想どおりだな。

 それ以外にオレ達を召喚する理由なんてないだろうし。


「我を差し押いて大魔王とは、身の程を知らぬ愚か者め。よかろう。この手で滅ぼしてやる」


「やあれやれ。魔王の次は大魔王か。いつになったらわたしは優雅なまったりライフを送れるんだろう」


 即答のルキフルとは対象的な反応をしてはいたが、なんだかんだいってノエルも引き受けるだろう。

 それはレイも同じだろうし、もちろんオレもだ。

 どんなsugeee能力でも使わなきゃ宝の持ち腐れだし、使ってみたいと思うのが人情だ。何より、困ってる人を助けてナンボのチートってもんだ。


「それにしても、わたし達が四人で闘わなくてはならないなんて、ここの大魔王はそんなに強いのかい?」


 ノエルの疑問はもっともだった。オレも気になっていた所だ。

 その気になれば神の国ですら制圧できそうな顔ぶれを集めなきゃ太刀打ちできない大魔王なんて、存在するんだろうか?


「それは、大魔……」


「危ないっ!」


 叫ぶと同時に、オレは跳んだ。グラスを抱き抱えて。

 一瞬の後――。


 ドドオオオォォォォーン!!


「きゃあああっ!」


 爆風に背中を押されながらも向きを変え、飛翔(フライ)のスキルで空中に停止した。見下ろすと、地面が大きく抉れ、煙が立ち昇っている。

 どうやら、何者かに攻撃されたらしい。何とまあ、大胆な不法侵入があったもんだ。


「この家のセキュリティは一体、どうなっちゃってんだよ……」


 女神様ん家の庭でバトルなんて、聞いた事ないんだけど。


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