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48・魂の色は何色ですか?

 それぞれの対戦相手が決まった所で、ノエルがサタギアナに関するレクチャーをゴズメスから受けていた。

 中心の水晶からナーロッパ全体の地形が浮かび上がった地球儀のようなアイテムを、ルキフル、イヴと、なぜかミルミルも一緒に覗いている。

 内部事情を知り尽くしているゴズメスの説明を聞ける事は、ノエルにとって相当な手助けになるだろう。


「それと、ヤツがい……あ、おい、ミルミル! 回すんじゃねぇよ!」


「半透明じゃけぇ幻みたぁなモンかと思っちょったら、触れるんか。どういう仕組みになってるんなら」


「ふわふわ浮いてる。不思議ね」


「オメェらいじんなっての。場所が分からなくなんだろうが。え~っと……ああ、ここだ。ほら、でかい湖があんだろ? このど真ん中に城があんだわ」


「それだと、船を使うか飛んでいくかしなければならないね」


「湖上はガッチリ見張りが固めてる上に、濃い霧で覆われてる。オメェなら行けねぇ(こた)ぁないだろうが、手間も時間もかかっちまうだろうよ。そこで、だ。ここ」


「何があるんだい?」


転移門(ゲート)だよ。こいつを使えば城までは一瞬だ」


「秘密の出入口って訳だね。じゃあ当然、警備も……」


「もちろん、守備隊と門番(ゲートキーパー)付きだ。ゴツいのが目を光らせちゃあいるが、そいつさえクリアしちまえば守備隊は数が少ねぇから、湖を越えて行くより早いと思うぜ」


「他に入り口はないの?」


「あるにはあるが、そっちは地下道だ。途中で崩落してるんで今は通れねぇはずだがな。え~っと、どの辺だった……こらっ! 動かすなってんだよ!」


「ちょっとくらいいいじゃんか」


「よくねぇよ! 説明できねぇだろうが! おい、ルキフル。こいつらの相手しててくれよ」


「我に子守りなどできるはずがなかろう」


「何じゃいや。ゴズメスの~ケ~チ~」


「ごずめすの~け~ち~」


「あっち行ってろチビッ子どもがっ!!」


 ……まぁ、ちゃんと説明を聞ければ、の話だけど。


「グラスさん」


 幼女コンビに悪戦苦闘するゴズメスを遠巻きに眺めていると、レイが声をかけてきた。

 話の内容は、固い表情を一目見ただけで予想できた。


「さっき途中になってしまった件なんですけど……」


 無言のまま、グラスが頷いた。


「『始まりの魔導師』と『魔導師の瞳』……その二つに関する事……ですよね?」


「はい」


「…………」


 俯いたグラスの表情を見て、レイは察したようだった。

 それは、女神にとって禁忌の存在――おいそれと話せる内容じゃないんだろう。


「やはり、そうですか……」


「すみません……。女神(わたくしたち)にとっては、口にする事すら禁じられている事柄なのです。本来なら、『終罪(ついざい)の死神』の名ですら……」


 目に見えて、レイは落胆していた。

 予想はできていただろうが、それでもやはり、一縷の望みを持っていたようだ。


「あの、レイ様……一つだけ……」


 その姿を見たグラスが、慎重な様子で声をかけた。

 下を向いていたレイが、ぱっと顔を上げた。熱を帯びた視線を、正面からグラスに向ける。


「他の世界より濃い魔力に覆われたナーロッパの中でも、バロモアが根を張る場所は特に高密度の魔力が渦巻いています。耐性の低い生物では、近寄るだけで命を落としてしまう程にです。ゆえに、その森は……禁忌の地とされているのです……」


「禁忌の……地?」


「…………」


「!? まさか……」


「…………」


 グラスは、僅かな反応も返さなかった。返事はもちろん、微かに頷く事すらしない。


「そうですか……」


 対するレイも、その先を口にはしなかった。

 ただ、グラスの瞳に、欲する答えを見たようだった。


「……分かりました」


「本当に……申し訳ありません。魔帝討伐(このようなこと)をお願いしておきながら、まともなお礼すらできず……」


「いえ、十分です」


 最大限譲歩したグラスの心情を汲み取ったんだろう。レイが、静かな声でいった。


「それが分かっただけでも、ここに来た甲斐がありました。後は自力で頑張ってみますよ。グラスさんにご迷惑はかけません」


 深々と、グラスが頭を下げた。

 ここまでオレは、黙って話を聞いていた。二人の問題に部外者が口を出すべきじゃないと思ったからだ。

 しかし一つだけ、レイに伝えておきたい事があった。


「レイ」


 こちらを向いたライトブラウンの瞳を真っ直ぐに見つめながら、オレはいった。


「何でそんなヤバいものを調べようとしてるのか、理由は聞かないよ。ただ……」


「……」


「力に飲まれるなよ。オレは、闇堕ちしたお前となんか闘いたくない」


 ずっと気になっていた。

 この話をしている時、レイからはある種の危うさのような物が感じられる。

 一歩間違えば身を破滅させかねない危険な詮索――根底には、好奇心に引っ張られただけとは違う“覚悟”があるように思えた。


「ルキトさん……」


 必死であればあるほど、僅かな歯車のずれで制御を失う――覚悟には、そういったリスクが付きまとうものだ。

 それが行きつく所まで行くと、目的のためには手段を選ばないという危険な思考に陥ってしまう。

 そして、暴走した覚悟は、強固であるほどに視界を狭め、盲目的・盲信的な思い込みとなって、破滅へと突き進む結果を生み出す。

 しかし、そうならないような存在――ブレーキとなり得る誰かがいれば、暴走を防ぐ事ができるだろう。


「まぁ、素のままで『地上最強決定戦』をやろうってんなら、いつでも受けて立つけどな」


 それが、ここにいる皆であればいいと、オレは思っていた。


「……分かりました」


 軽口で、レイの肩から力が抜けたように見えた。

 同時に、場の空気が和んだようにも感じた。


「見失うなよ。当面の目的は、バロモアを倒す事だ。ミルミルと揃って、必ず無事に帰ってこい。いいな?」


「はい!」


 力強く応じたレイの瞳からは危うさが消え、代わりに、迷いのない光が宿っていた。

 それを見て、安心した。


「なんか……」


「ん?」


「ルキトさんって、優しいですよね。兄弟がいたら、こんな感じなのかな」


「やめろよ、バカ」


 レイが、はにかんだ笑みを浮かべた。やっぱりこいつには、この幼い表情の方が似合っている。

 やり取りを聞いていたグラスも、いつもの穏やかな顔つきに戻っていた。


「こっちは済んだよ」


 ちょうどいいタイミングで、ノエル達がぞろぞろとテーブルに戻ってきた。

 席につきながら、ゴズメスがぶつくさと文句をいっている。


「ったく。ようやく終わったぜ」


「お疲れさん」


「邪魔ばっかしやがって。無駄に時間がかかっちまったじゃねぇか」


「そがぁなもん、ゴズメスがケチケチしよるからいけんのじゃ」


「ゴズメスのケチんぼ~」


「ケチでいってたわけじゃねぇっつぅの……」


 ゲッソリした顔を見る限り、女子関係には弱いっていうチートたる条件を、こいつもしっかりと満たしているようだ。


「しかしまぁ、おかげで貴重な情報を貰えたよ。さすがは四天王だね」


「居城の場所が分かっていれば、すぐにでも乗り込めますね」


「うん。戦力もほぼ把握できたから、調べる手間が省けた。大分時間を短縮できるね。助かるよ」


「聞いたかよ、ルキト」


「それでもチャラにならないくらいの迷惑かけられてるんだけどな」


「そんなモン、これからたっぷり返してやるっつぅんだ。なぁ、ルキフル!」


「ふっ……そうだな」


「それでは、皆さま」


 雑談するオレ達に、立ち上がったグラスが声をかけてきた。

 皆の注目が集まる。


「ご出立される前に、お渡ししておきたい物が三つあります」


 そういいながらテーブルに置かれたのは、片手に乗るくらいの小さな箱だった。

 金細工が施された銀色の箱を開けると、指輪が四つ、並んでいた。


「指輪?」


「はい。『魂色(こんじき)の指輪』といいます」


「どんなアイテムなんですか?」


 目を輝かせながら、レイが身を乗り出した。

 一見して分かるレアアイテムに、ゲーマーの血が騒いだようだった。


「身に付けた者にお互いの位置情報を知らせる指輪です。生命力を感知する仕組みになっているので、相手の状態を知る事もできます」


「GPSみたいなものか」


「離れた相手と合流する時なんかには便利だね」


「どの指でも大丈夫ですので、はめてみてください」


 配られた指輪は、流線の透かし彫りが施された銀色の本体に、透明な石がはまったデザインだった。

 少し大きめだったが、左手の中指にはめると吸い付くようにサイズが縮んだ。


「指に合わせてサイズが変わりましたよ」


「付けてる感覚がしないね。不思議な指輪だ」


 すると、透明だった石に、うっすらと色が浮かんできた。

 すぐにそれは、サファイアのような深い青へと変色した。


「あれ? 宝石が青くなったぞ」


「わたしは赤だ」


「ボクのは緑色です」


「ルキフルは?」


「黒だ」


「全員違う色なのか。どういう仕組みだ、これ」


 まじまじと指輪を眺めながらグラスに尋ねた。


「その宝石は装着者の魂に反応して色を変える性質を持っているのです」


「魂の色が分かるのか」


「ああ、何となく納得できるね。それぞれのイメージカラーって感じだ」


 オレ達三人に関していえば確かにそうかもしれないが、当のノエルが赤っていうのは意外に感じた。

 色から連想する情熱的なイメージとはかけ離れたキャラだったが、飄々とした言動や見た目とは裏腹に、案外、熱いヤツなのかもしれない。


「これ、どうやって使うんですか?」


「目を閉じて、指輪に魔力を集中してみてください」


 いわれた通りにしてみると、瞼の裏にモノクロの地図が浮かび上がった。

 その中心に、白、赤、緑、黒の光が集まっているのが見える。


「おお、これ、ナーロッパの地図か」


「白が自分で、それ以外が皆さんのですね」


「光の強さで相手の状態も分かるんだね。今いる場所が中心にくるようになってるのかな?」


「はい。その地図は人間界にある物より詳細ですので、旅の助けにもなると思います」


 目を開けると、ミルミルとイヴがレイとノエルの手元に好奇の視線を向けていた。


「なんじゃあ、面白そうな指輪じゃのぅ。ちぃと貸してみぃや、レイ」


「今は待っててよ、ミルミル」


「ねぇねぇノエル。イヴも付けてみたい」


「分かった。後で貸してあげるよ」


「ホント?」


「うん。約束だ」


 どうやら、女の子が装飾品好きなのは、精霊やドラゴンでも変わらないらしい。


「なるほど、これの使い方は分かった。で、他に渡したい物って?」


「はい。こちらになります」


 グラスの右手が水平に振られた。

 すると、オレ達四人の前に、半透明のウインドウが現れた。


「これは……」


「スキルリストです。お好みの物を一つ、お選びください」

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