40・皇魔六帝
グラスの告白(?)に、全員が言葉を失った。
「大魔王だけで……六人もいるの……?」
まさかのリアルボスラッシュ宣言だった。
なるほど、だからオレ達も一人じゃなくて、四人揃って召喚されたのか……。
「は……はい」
申し訳なさそうにグラスが頷く。
「普通なら、せいぜい魔王の後に一人いるくらいですよね」
「それだけの数が最初からこの世界にいたとは考えにくいね。と、いう事は……」
「ご想像の通りです。元は各々が別の世界を支配する魔帝でした」
「それが、なんだってまた……」
「ある時期を境に、次々とやって来たのです。彼らは皆、魔力を吸収する事で自らの力を増大させる術を持っているのですが、ナーロッパは魔力濃度が高いので、それに目をつけられたようでして……」
「つまりここは、良質な魔力を供給し続けてくれる食糧庫みたいな物、って訳だね」
「だから、手に入れようとしているのか」
「吸収するだけで強くなれるとか、反則じゃないですか……」
まぁ、チートがいうなって話ではあるんだけど、確かにこれは、設定がバグってる。
「しかし、各世界が持つ魔力量には限りがあります。過剰に搾取してしまうと、世界を『存在』として繋ぎ止めておく事ができなくなってしまうのです」
「つまり、水が干からびた木みたいに、ナーロッパが枯れちゃうって事ですか?」
「最終的には、消滅してしまいます」
「一人ならまだしも、そんなのが六人もいたら……」
「いくら豊富とはいえ、魔力が持ちません。さらに、お互いが争い始めてしまうような事になると……」
「魔力うんぬんの前に、世界はメチャメチャだ」
オレの言葉に、グラスが頷いた。
「それが本当なら、こうしてる間にも彼らは力を増してるって事ですよね」
「ああ。早く動かないとマズいな」
「しかし、六人いるっていうのが厄介だね。まとまって動いていたら、全部倒すのに時間がかかってしまう」
「なら、手分けをすればいいだろう」
ノエルが提起した問題に、それまで無言だったルキフルが答えた。
「順番に殲滅していたのでは、いずれ情報が漏れる。各々が世界を支配下に置こうとしているならば横の繋がりがあるとは思えんが、その分、他勢力の動向には目を光らせているだろう。ぐずぐずやっていたのでは、先手が打てるというアドバンテージを失う」
ルキフルのいっている事はもっともだった。
戦力を四つに分け、少人精鋭で隠密行動を取りながら、まずは四人を倒す。そののち合流して、残りをそれぞれ二人がかりで一気に倒す。
各々の闘いに、タイムラグは少なければ少ない方がいい。時間が開けば、それだけ相手に対策を練る間を与えてしまうからだ。
ただし、あくまでもこれは、理想的に事が進んだ場合の話だ。
仮にも皇帝とまで称される実力者達を相手にして、すんなり勝てる保証なんてない。予想外のトラブルが発生する前提で行動する必要がある。
「そうだね。まとまって動くより、理にかなっている。元々、そのつもりで四人召喚したんだろうし」
ちらりとグラスを見ながら、ノエルがいった。
「でも、そうなると問題なのは、敵さんの強さですよね」
「各個撃破が可能かどうか、か。どう思う、グラス?」
「それぞれの情報はできる限り集めてみました。しかし、彼らの活動自体、別世界での出来事だったため、細かい部分までは……」
「つまり、本当の実力は未知数、って訳か」
「はい……」
自信なさげにグラスが頷いた。
戦力を分散するリスクの大きさは不明――それが、現状って事か。
「分からぬなら、考えていても仕方あるまい。まずは、行動を起こすべきだ」
いい意味でも悪い意味でも、ルキフルの考え方はシンプルだ。
まぁ、細かい事を考えるのが性に合わないってのもあるんだろうけど。
「そうですね。取り敢えず今あるだけの情報をもらって、足りない部分は各自で収集して補足する、って感じで、どうですか?」
「うん。いいんじゃないかな」
ルキフルの提案に、レイとノエルが賛同した。
確かにそれが、今のところ一番現実的な選択に思えた。
「分かった。それじゃ、グラス。六人の事を話してくれ」
「はい」
全員の視線を集め、グラスが告げた。
闇の皇帝六人。
その、素性と、名を。
「聖なる祝福と黒き魔力を宿す白悪の王。“聖魔帝”サタギアナ」
「神竜たる父と地母神たる母を喰らった背徳の皇子。“神喰の灰竜”ズーズ」
「穢れの底に沈澱する腐界の主。“黒浄王”ヒルギュラ」
「混沌の大渦が産み出した亡者の統率者。“淀みの亡帝”ロンボロイド」
「永遠の命を求めた魔道の狂求者。“古樹翁”バロモア」
「そして、天を死臭で満たした残り香の悪魔。“骸香聖天”ンデューラ」
一息にいって、グラスは一度口を閉じた。
その後、神託を告げるかのような厳かさで、こう締めた。
「以上が、世界を覆わんとしている巨凶、皇魔六帝です」




