38・キスとヘタレと非リア充
「なっ……なな、な……!?」
強烈なダメ出しと同時に現れたのは、ミルミルだった。
腕を組んで仁王立ちし、ガッツリとオレを睨み付けている。
「よいよ、チンタラやっちょらんで、さっさとキスしよればええじゃろうが!」
「な……んで、ミ、ミルミルが……?」
頭が真っ白だった。
グラスも同じだったんだろう。無言のまま、見開いた目を向けてフリーズしている。
「おやおや。気づかれちゃったね」
「あ~あ。もう少しだったのに」
「もう、ミルミル。ダメっていったのにぃ……」
続けて家の陰からゾロゾロ出てきたのは、ノエル、レイ、イヴだった。
こちらは揃って、呆れ顔をしている。
「ダメはルキトじゃろうが。あそこまで行っちょって、やめるか普通」
「やめた訳じゃなくて、頑張ってたんだよ、ルキトさん」
「それでもできんとか、ヘタレかっ!」
「まぁ、頑張るっていうのも、ちょっとおかしな表現だけどね」
「ねぇ、ノエル。もうチューしないの?」
「今回はお預けだね」
「えぇ~……見たかったのにぃ……」
「ははっ、イヴには少し早かったから、これで良しとしておこうか」
「ぶぅ~……」
まるで見せ物を観覧しているみたいに、好き勝手いってやがる。
聞いてる内に我を取り戻したオレは、やっとの事で声を絞り出した。
「お、お前ら、いつから、そこに……?」
「始めからです」
あっさりと、レイがいった。
「最初にわたし達が戻ってきてね。ルキフルの闘いを見ていたら、レイとミルミルも帰ってきたんだよ」
「で、ボクもここから見てたんです。あ、そうだ、グラスさん」
「は、はい……」
「すみません、食べ物をいただきました。ミルミルが我慢できないっていうもので……」
「え? あ、はい……」
答えはしたものの、グラスはまだ惚けているみたいだった。
「そうしたらお二人さんが戻ってきてさ。声をかけようと思ったんだけど、結界があって近づけないし、なんか話し出したから、様子を見ていたんだよ」
「それで、その、今に至る、と……」
少しだけ申し訳なさそうな顔で、レイがいった。
「まったく、ガッカリじゃわい。見損なったで、ルキト!」
対して、なぜか怒っているミルミルが、頬を膨らませながらいった。
「お……お前ら……お前……ら……」
「とりあえず、結界は解いてさ。お茶にでもしようよ、ルキト」
「そうですね。その内、ルキフルさんも帰ってくるでしょうし」
やっとの事で頭が回り始めた。
転生して、ハーレム作って、魔王を倒して、英雄になって、さらに召喚されて、女神と出逢って――。
それでもまだチェンジできない職業なんて、あっていいわけがない……んだけど、実際にあるってんだから、人生ってのは本当にタチが悪い。
一体どうすれば、この『非リア充』とかいう呪いを解いて、『リア充』とかいう上級職にジョブチェンジできるんだろうか。
てか、そもそもこれ、解呪できるんだろうな……。
そんな事を考えてる内に、ぶつけ所のない激情がふつふつと沸き上がってきた。
「ふざっけんな! くっそがああぁぁぁぁーーっ!!!」
迸る絶叫となったそれはしかし、青い空に吸い込まれて、すぐに消えた。




