2・女神なのに王様バージョン
それにしても……うん。
女神だなぁ……。
腰まで届くサラッサラの髪とぱっちり大きい瞳は明るい緑色。
おそらく、草木を司るタイプだよな。なんとなくおっとりした感じがいかにも草食系だし。
額のところでクロスした前髪、感情表現をサポートするアホ毛、小さい顔、筋のとおった鼻、形のいい唇、透明感のある白い肌、程よい巨乳、細い腰、すらりと伸びた長い足。
清純さをキープしつつも、胸元をアピールする事は忘れない純白のドレス。ピッタリフィットのデザインに、深~いスリットのオマケ付き。
なんていうか、ザ・女神! って感じの女神様だ。
こんなんに頼まれた日にゃあ、大魔神とでも闘ったるわ! って萌え豚が大量に沸いて出てくるに違いないと思わせる、ビジュアルで見る者をぶん殴れるレベルの美女。
なんだかんだいって、やっぱり王道は外しちゃいけないよね。
なんてどうでもいい事を、オレはぼけっと考えていた。
「勇者様? どうかなさいましたか?」
はっと気づくと、目の前に女神の顔があった。胸の前で合わせた手が強調する谷間と一緒に、オレの顔を心配そうに見上げている。
ヒロイン枠が、高速移動のスキルを持っているチートでも反応できないほどの超高速移動術を使えるのも、まあ、お約束だよな。
「いや、なんでもない」
目のやり場に困り、顔を背けたオレの鼻をふわりとくすぐったのは、果実のような甘い香り。ナチュラルに魅了を発動しつつ、女神はいった。
「そうですか、よかった。ご気分がすぐれないのかと思ってしまいまして……」
「多少驚きはしたけど、オレ、こういうの初めてじゃないしさ。慣れてるっていうと変だけど、この後の展開も予想できるんだよね」
「そ、そうなんですか? さすがは勇者様、未来を見通すスキルをお持ちなんて……」
本気で感心しているようだった。アホ毛をピコピコ動かしながら。
この女神、ちょっと天然入ってる?
「とりあえずさ、名前教えてよ」
「あ! し、失礼いたしました。わたくし、グラスと申します。こう見えて、草木を司る女神なんですよ?」
いや、まあ、うん。そりゃそうだろうね。
その見た目で破壊の女神なんていおうもんなら、表紙詐欺ならぬビジュアル詐欺になっちゃうし。
「分かった、グラス。オレは……」
「ルキト様、ですよね」
「あ、知ってるんだね、やっぱり」
「はい! もちろんです!」
花のような笑みを咲かせて、グラスはいった。
分かっちゃいたけど、やっぱり女神の笑顔は破壊力が違う。
ああ……いい香りが……。
って、呑気にラブコメ展開してる場合じゃないんだよ。ここからが本題なんだから。
「で? オレを召喚した理由は?」
デレかけた顔を引き締めてオレは尋ねた。
まあ、大方の予想はついているんだけど、説明は聞くってのもお約束だ。
「そのお話をする前に、会っていただきたい方々がいらっしゃるのです」
「会っていただきたい……方々?」
「はい」
「方々って事は、一人じゃないの?」
「三人いらっしゃいます」
あれ? なんか珍しくね?
これって、王様に召喚されたバージョンのパターンだよな?
仲間と半強制的にパーティー組まされて、役に立たないからってポイ捨てされて、でも実はすんごいチートスキル持ってた主人公が無双するのを見たパーティーメンバーが後で後悔しちゃう的なやつ。
女神バージョンだと普通、パートナーになった女神自身が回復・案内・ヒロイン・驚きの一人四役をこなすもんでしょ?
予想してなかった展開に、オレはちょっと戸惑った。
そもそも今のオレに、仲間なんて必要ない。せいぜい案内役がいてくれたら助かるかなぁ、くらいのもんだ。
「皆さまが、こちらでお待ちです」
グラスに案内されるまま部屋を出ると、草原と青い空が広がっていた。
そこには確かに、三人の男が立っている。
ベタないい方だけど、これがオレ達四人の、最初の出逢いだった。