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9・茶番があるのはお約束

 

 闘いを終え、元の場所に戻ったオレを出迎えてくれたのは、グラスの笑顔だった。


「ルキト様!」


 着地すると、嬉しそうに駆け寄ってくる。そのまま抱きついてきかねない勢いに、思わず一歩下がった。


「あ……ご、ご無事で、何よりです!」


 喜びの中に、少し残念さを滲ませながらグラスはいった。

 いやぁ……これは反則だろ……。

 ザインの笑いと落差がありすぎて、ちょっと目眩がするんだけど。


「あ、ああ。みんなは?」


 かろうじて体裁を整えて訊くと、グラスの顔が真顔に戻った。


「まだ、闘っていらっしゃいます」


「え? そうなの?」


 わりと時間かかったと思ってたんだけど、オレが一番のりだったようだ。


「なんだ、そんなに苦戦してるのか、あいつら」


「それが……」


 半分冗談のつもりだった。しかし、グラスは言葉を濁している。

 まさか、ホントにヤバい感じ?

 と、ここで気づいた。

 彼女の口ぶりだと、皆の様子を知っているみたいに感じる。

 そういえばさっきも、オレが戻ってくるのが分かってたみたいだったし。


「グラス、ひょっとして、千里眼とか使える?」


「あ、はい。遠くの物を見聞きできます」


 音声付きってか。さすがは女神様。


「よろしければ、ルキト様もご覧になりますか?」


「そんな事できるの?」


「はい」


 恐らくは使えるだろう回復魔法だけじゃなくて、補助系の能力もきっちり持ってるあたり、心得てるって感じだよな。


「そうか、じゃ、せっかくだから、頼むわ」


「分かりました! そ、それでは……」


 アホ毛をフリフリしながら、グラスが歩みよってきた。

 あれ? なんか、顔真っ赤なんだけど。


「し……失礼、いたします」


 うつむきながらそういって、目の前でくるりと背を向ける。そしてそのまま、身体を預けてきた。


「え? なな、何、ど、どうした?」


 自分でも信じられないくらい、オレは動揺していた。

 さっきのお姫様抱っこは緊急事態だったから意識する暇もなかったけど、今回は違う。

 もうね、寄りかかってくる身体の柔らかいこと温かいこといい香りがすること……。

 しかもあれだ、サービス精神旺盛なドレスが犯罪レベルでいい仕事してるもんだから、角度的に豊かな胸が谷間とセットになって、これでもかと自己主張してくる。

 野郎共の闘いなんぞ見てる場合じゃねえぞ、こりゃ……。

 状態異常無効化のスキルはどこへやら、ガチガチにフリーズするオレを肩越しにちらりと見ながら、グラスがいった。


「か、身体が触れていないと、お見せできないので……」


「いや、なら、手を繋ぐとか……」


「密着するほど見やすくなりますし、それに、こ、このくらいじゃないと、あの、音が聞こえないのです……」


 なんだよこの、チョロインがチートを落とすためにあるみたいな必殺技は。

 自慢じゃないけどオレ、元ヒキニートだよ?

 しかも、バリバリのDTだよ?

 前の異世界でハーレム作ってたのになんでだよって我ながら思うんだけど、なんつうかこう、チャンスはあってもタイミングが悪かったっていうか、欲望はあっても勇気がなかったっていうか、ああ、なるほど、だから勇者じゃなくて劣等生とかいう取ってつけたみたいな肩書きなのか……。


「そ、それでは、どなたからご覧になりますか?」


 迷走する思考を、グラスの声が止めてくれた。

 そうだ。まだ皆は闘っているんだ。それも、どうやら苦戦してるっぽい。こんなとこでデレてちゃあ、命をかけてるあいつらに申し訳ない。

 オレは自分を戒め、気を引き締め直した。


「そうだな……一番近いのは誰?」


「ノエル様です」


「よし。じゃあ、ノエルからだ」


「分かりました。それでは、目を閉じてください」


「目を瞑らなきゃいけないのか。なら、ちょっと待って」


 念のため、周囲に結界を張った。

 物理・魔法攻撃を完全にシャットアウトする、強力なヤツだ。


「オーケーだ。頼む」


「はい」


 目を閉じると、瞼の裏に高速で飛行する主観映像が写し出された。流れる風景の速度がだんだんと落ちていき、人影が見えた所で移動が止まる。

 そこは、湖の上だった。

 視界がズームすると、確かにノエルの姿が見えた……ん……だけど……。

 あいつは一体、何をやっているんだ?


『んん……?』


 よくよく見てそれが分かった。

 そしてこの時、オレは気づいた。

 真に反省すべきは、本気を出さないと公言するあの男が命をかけて真剣に闘ってるとか考えちゃってた自分の迂闊さだった、という事に。


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