音葉という女子生徒の話
ふとした疑問を聞いたことがあった。
愛されることを望んでいないのか、と。
しばらく悩んで、望んでいない訳じゃないですよ、と、困ったように笑いながら彼女は答えた。
「ねぇ、あなた、早乙女 音葉だよね」
昼休み、屋上にて。私に声をかけられた女子生徒はぽかんと口を開けてこちらを見る。音葉は桃色の髪に深緑の瞳、校則を破りに破った様な姿をしていた。校則を破れるのだから気も強そうなものだが、意外な事に彼女はいじめを受けている。制服は泥で汚れ、服の下から見える肌はあちこちに痣があった。深く関わるのは避けたいが、校則を破ってるんだから風紀委員として注意してくれ、と先生に頼まれたのだ。
「私、風紀委員の露草 しずくって言うんだけど、その髪と目、何とかならないの?」
私が聞くと、音葉はバツが悪そうに頭を掻き、目をそらす。やっぱりオシャレとしてこの格好をしているのだろうか、アニメのコスプレにしたって限度というものがあるだろう。
「すいません…」
「いや、謝られても…髪と目、何とかすれば良いだけだよ」
謝って許されるなら学校に風紀委員なんていない。注意しても聞かない生徒もいるけど、素直そうだし、大丈夫だろう。
「できない…です…」
できないらしい。…え、できないの?
「え?な、なんで?染め直せばいいんじゃないの?目はカラコンでしょう?取ればいいじゃん?」
「………」
黙りこくってしまった。染められたなら染め直しもできるだろうに。と、沈黙していたところで予鈴がなった。