被告人、前へ、1
被告人、前へ
お互いだけだった。
互いが存在していることだけが、孤独から逃れる術であり、だから彼女は僕の世界そのものだった。
雲の切れ間から光がこぼれた。ぼんやりと視界が明るくなっていく傍らで、僕はその光が届かないところへ駆け出した。純粋な恐怖心からだ。音もなく澄んでいて、ひそやかで、どこまでも冷たく、芯まで凍るような、そんな残酷な恐ろしさ。
孤独であること。他に受け入れられることのない、決して認められることのない存在であることを、自覚しているからこその果てしない絶望。僕は
はじめまして、こんにちは。自己紹介が遅れて申し訳ございません。とは言っても、わざわざ紹介させていただく程のものではございません。
僕は汚い生き物です。とても人様に言えるような生活は送っておりません。僕はこの世に産み落とされてまもなく、走り始めました。満足に泣くことも、歩くことも許されませんでした。走ることこそが僕の生きている理由、と言ってもいいのです。日の当たらないところを走って、走って、走って。
走って、いつの間にかそれは「逃げて」に変わっていました。自覚はなかったのです。いつの間にか自分は「罪深い存在」に変貌していました。いえ「自分は罪深い存在であると知った」と言ったほうが正しいのかもしれません。この頃ようやく私は自分という存在の輪郭がぼんやり見えてきたのです。
似た生き物にはたくさん出会いました。たくさんです。でもその内一人として自分と「同じ」生き物には出会いませんでした。数分前すれ違った姿と、今、すれ違った姿がイコールであっても、僕は決して一緒にはなれないのでした。
例えて言うなら、そう。蝶と蛾、コガネムシとカブトムシのようなものです。勘違いしてもらっては困ります。僕は蛾でもカブトムシでもありません。どちらかというと、蝶やコガネムシ寄りの生き物です。けれどもそんな個性が、それゆえ一層嫌われる度合いをかさ増しさせているようにも思えました。僕は鮮やかな光沢をもっているにも関わらず、万人に目をそらされ続けてきました。十秒として誰も認めてはくれないのです。蝶のように仰ぎ見られることなどまさか望んでいません。一方でコガネムシのように、幼心に愛でられ、服の上に「ブローチ」として飾られることも生涯ないでしょう。
僕はハナっから種としての誇りなど、求めていないのです。それは、自分が存在することを認められた上で派生する贅沢のひとつに過ぎません。そのこと自体、生きながら亡き者とされる孤独を、この凍てついた寂しさを、感じることのない贅沢な生き物のたわごとなのです。




