表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
被告人、前へ  作者: 速水詩穂
2/14

白い虎

作品下部にイラスト掲載あり。

イメージで終わりたい方はスクロールお気をつけ下さい。

 


 小さなオンナノコが手をふった。向かっていくと、少女は大きな目を見開いて、あたしを見上げた。

 小さな靴、短い手足。麦わら帽子をかぶった頭は丁度一口サイズで、だからエサとして丁度いい存在だった。

 丁度いいエサが、今目の前で手をふっている。


 気づけば十三時だった。本日二度目のイベントタイム。分厚いガラスの向こう、鉄格子をそのままに、複数の人間が姿を現した。

 定時。毎日この時間になると、同じような格好をした人間が、あたしのエサやりにやってくる。公募一瞬でその定員が埋まってしまうのだから物好きなものだ。それほどまでに「自分より力あるものに施しを与える」のは楽しいのだろう。

 鉄格子の隙間から、戸惑いがちに肉が差し出される。あたしは係の合図とともに、それに手を伸ばす。


 プライドを掲げたのは最初だけだった。侵食する飢餓に耐え切れず、一口口にした段階で、あたしが大事にしていたものは一瞬にして崩れてしまった。落ちるのは、あっけないくらい簡単だった。

 昔、旦那の狩りがうまくいかず、食べられない日が続いたとしても「周りの生き物に恐れられる存在である」という自負があったから、背筋を伸ばしていられた。でも今は、騒ぎ立てる数々の細い生き物からの施しを受け、世話をされ、何の目的もなく息をする。旦那も、子供も、この狭い世界の中で永遠に施しを受け続ける。子供の子供も、そのまた子供も、きっと。


 あたしの口の大きさに驚いた子供が、すぐ後ろにいる母親に抱きついて泣き出した。耳をつんざくようなひどい騒音。

 うるさい。終わったなら早く連れて行って頂戴。

 フラッシュ。皆が皆、フィルターを通してあたしを見る。小学生の男の子でさえ、ガラスに手をつくことなく、うれしそうに画面を覗く。

 フィルターを通して、ガラスを通して、いくつもの障害物の上に焦点を結んだものを、何の疑いもなく信じる。幸せですね。

 幸せですね。


 エサとひきかえに失ったもの。

 目の前で手をふる少女。小さな麦わら帽子。あたしは両目でしっかり獲物を捕らえると、大きく口を開けた。

 少女は「わぁ」と手をたたいた。










挿絵(By みてみん)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ