被告人、前へ、3
突然響いた悲鳴に振り向くと、二メートル先で女性が恐怖に頬を引きつらせて僕を見ていた。
しまった。
ぼんやりしているうちに太陽の角度が変わり、自分にも光が当たってしまっていた。僕はあわてて駆け出すと、近くの花壇の影に隠れた。心臓が痛い。頭まで届く脈の音は、体が正常に機能している証だった。
証だった。親にもらった体がここにある。僕はここに生きている。間違いなく生きている。のに。
僕は花壇の影でうずくまると、足音が過ぎ去るのを待った。未だ大きく脈打つ心臓に対して、息を潜めるのはつらいかと思ったが、なんのことない。そんなこと感じる間もなく、女性は過ぎ去った。
大げさにかかとを鳴らす音だけが、やけに強く耳に残った。
初夏だった。ようやく気温は安定したものの、雲の多い日が続く。そのまま梅雨入りしてしまいそうだ。
はっとする。気がつくと景色が一様にオレンジに染まっていた。僕は目を細めると、光の浸食し始めた花壇を後にし、建物の壁をつたって影に向かった。
ようやくこの時間が来た。僕は足早に歩を進めると、建物の裏側に出た。とあるアパートの敷地内、東側にある階段の下に、白い体を確認する。もはや周りのことを気にする余裕などなかった。僕ははじかれたように駆け寄ると、その体に触れた。ちょうど階段の裏、あおむけで倒れているのは、僕の姉だった。
〈お姉ちゃん〉
僕はもう二度と口を開くことのない姉に向かってつぶやいた。世間から見れば、ごくありふれたことに違いない。生まれてくるものに死に逝くもの。ただ、一度に生まれる数によって、命の比重に違いが出るのは理不尽だ。同じように悲しむものがいて、それは当前のことなのに。
僕の姉は虫けらのように殺された。たった一瞬、光の下を通っただけで、毒ガスを浴びせられ、命からがら逃げ出した先、ここで力尽きたのだ。僕自身、姉の後に続こうとしていたが、つんざく悲鳴に驚いて一瞬ひるんだ。光と影のさかいを目の前に、僕はまだ影の中にいた。そうしてたった一瞬。たった一瞬が生死を分けた。それほどまでに「光」とは尊いものなのだろうか。たった一瞬の光が姉の命に相当するなら、それなら僕は一生分の闇を受け入れてやろうと決めた。
〈お姉ちゃん〉
僕はその白い腹を見やった。似た生き物はいるけれど、その腹はみな黒一色だった。僕と姉の腹は白く、三本の線が中央でクロスする文様をもっていた。足は細く、今は力なく投げ出されている。ああ




